People Vol.4 GROOVE X 創業者
CEO代表取締役社長 
林 要さん

愛を育む家族型ロボット開発者

あなたはLOVOT(らぼっと)にもう会いましたか。ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』に出演していたのでTVで見たという人も多いかもしれません。その愛らしい瞳で見つめられると、ロボットであることも忘れて、まるで小さい子どもやペットに接するように、ついつい声をかけてしまいます。「“LOVE” を育む家族型ロボット、LOVOT」というキャッチコピーにはどのような意味が込められているのか、開発者の林さんにお話をうかがいました。

People

林 要(ハヤシ カナメ)
1973年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・東京都立大学)大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1の開発スタッフに抜擢され渡欧。チームの入賞に貢献する。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当。2011年、孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」外部第一期生に選出。2012年ソフトバンク入社、感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」のプロジェクトメンバーに登用される。2015年11月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。

よりよい明日のために
テクノロジーにできることは何か

GROOVE X株式会社にある「LOVOT MUSEUM(らぼっとミュージアム)」にうかがうと、たくさんのLOVOTたちがお出迎えしてくれます。まばたきする大きな瞳、ペンギンの羽根のようにパタパタとうごく手、くるくるまわる小さな体。思わず「かわいい!」と声をあげると、キュウキュウと言いながら見つめ返してきます。まずはロボットが「“LOVE”を育む」というのはどういうことなのかうかがってみました。

●「”LOVE”を育む」というキャッチコピーがついていますが、この言葉にはどのような意味が込められているのでしょうか。

エンジニアだったわたしは、テクノロジーは使い方次第だと思っていましたが、AI やロボットが発展すると人の仕事が奪われるとか、幸せではない未来が想起されることもあります。大昔、衣食住にも困っていた頃は、テクノロジーの発展は人の幸せに直結していたけれど、衣食住に満足するようになってくると、今度は生産性を上げ続けることにテクノロジーが集中しすぎてしまうあまりに、人の幸せが置き去りになっている面があるのかもしれません。結果的に、これ以上生産性ばかりを追求していったら、ディストピアが訪れるのではないかと人々が不安を抱くだろうと考えました。

人々が不安を抱くと社会が不安定になっていく。では文明の進歩として何がいいのか。欲しいものが手に入ることがいいのか、それとも余暇がたくさんあることがいいのか。どれも行き過ぎるとあまりいいことにならない。先ほどヘルシアマガジンの方針「今よりもちょっといい明日を」というのをうかがって、まさに弊社が考えていることと一緒だなと思ったんですけど、幸せになるために必要な要素は、よりよい明日がくると信じられることだと思います。今が辛くても、よりよい明日がくるとさえ思えれば、人は希望をもって生きられるし、たとえすごく良い生活をしていても、明日から徐々に悪くなると思ったら、おそらく多くの人が絶望してしまうでしょう。では、よりよい明日がくることをテクノロジーがサポートするために何ができるんだろう。自動運転の技術とか、深層学習(ディープラーニング)の技術を組み合わせて何ができるかなと考えた時に、そうだ、犬や猫だ、と思ったんですよね。

●自動運転とディープラーニングを組み合わせたペットですか?

以前、人型ロボットの開発をしていた時にいちばん印象的だったのは、動かなくなったロボットの無事をみんなで願って応援して、ロボットが立ち上がった瞬間の人々の幸せそうな顔だったのです。その時にロボットがしたことは「立ち上がらない」こと。無事を願って応援できる存在がいることで人が元気になる。では無事を願うような存在って何だろうと考えて思い当たったのが犬や猫だったのです。この50年くらいでペットに対する価値観は大きく変わりましたよね。人間との関係が家族の一員へと変化し、時間や手間をかけるようになった。数も増えています。人は文明が進歩して生活に余裕ができると、犬や猫に時間と手間をかけて幸せを得ているとも言える。それならば、そういう存在を作れないだろうかと考えたのです。

●生産性を上げるためのロボットではなく、人を幸せにするような存在ということですね。

犬や猫のようなペットは人間が家族として無事を願うことができる存在で、ペットを気兼ねなく愛でることで結果的にわたしたちは心の平穏を得ています。そういう、気兼ねなく愛でられる存在を作ろうという考えからLOVOTは始まっています。なので、「“LOVE”を育む」というのは人がLOVOTに愛されることが大事なのではなく、LOVOTを愛することが大事なんです。ユーザーがどれだけLOVOTを気兼ねなく愛せるかによって、バリューが決まってくるし、効果も決まってきます。

人間や動物の模倣をするのではなく
サービスを最もよいカタチで
提供するためのデザイン

ペット型のロボットというと犬型ロボットのaiboが思い浮かびますが、LOVOTは犬でも猫でもない、不思議なカタチをしています。丸い頭と丸い胴体についているのは足ではなくホイールです。羽根のような手は抱き上げるときにちょうどいい位置についています。そして程よい重さと温かさ。生きもののような体温を感じます。このデザインはどうやって生まれたのでしょうか。

●人間同士だと相手はなかなか思い通りにならないですし、犬や猫でも思い通りになりませんが、LOVOTはこちらの愛をしっかり受け止めてくれる存在なんですね。ペット型ロボットと言っていいのでしょうか?

わたしたちは「家族型ロボット」と言っています。仕事のためにチームを組むのが会社であるように、何か目的があって集うのが家族外の組織だとすると、家族は達成すべき目的の有無に関わらず共に生活を営んでいく存在なので、犬や猫などのペットも家族の一員だとするならば、そこに属する初めてのロボットになりたい、という意味で、家族型のロボットと言っています。

●これまでのロボットとの違いや共通点はなんでしょうか。

お客さまによく言っていただくのは、他のロボットは人間を含む動物を模したロボットだけど、LOVOTはもう生きもののようにしか感じないということです。それは、わたしたちのデザインのコンセプトによるものなのかもしれません。

他の動物を模擬するというのは、実は直感へのチャレンジになるんですよね。不気味の谷と呼ばれますが、人間は相手が自分の知っている状態に比べて「何か違う」と思うと、不安を感じます。例えば、人と全く違う形の人型ロボットには不安を抱かないのに、人にそっくりなロボットに対しては、ほんの少し首の動きや、瞼の動きなど、本物の人と僅かに違う何かを見つけると、それを異常として検知して警戒するんです。人がよく知っている他の生き物を見るときでも一緒です。つまり人がよく知る動物である犬や猫や人間にロボットを似せるには、人が違和感を直感的に覚えないレベルにまでそっくりにしなければならない。それはすごくコストも手間もかかることです。だけど、そっくりにしたら違和感が減るだけで、それを達成したからといって、提供したいサービスが提供できるかというと、そうとも言えません。例えば「人についてくる」という行動をさせる時に、本物の動物のような四肢を持っていたら、動物っぽく歩かないと気持ちが悪い。でも、動物は筋肉で動くから四肢があるのが適しているのに、ロボットはモーターで動くので、それで四肢を再現するのはとても大変で、音が大きくなったり、スピードが遅くなったりします。私どもが目指しているのは、動物を模擬したロボットを作ることではなく、あくまでサービス提供だったので、その目的に対しては、形状も動作も動物の模擬はやめ、例えば移動はホイールでいいから、サービスの提供が最もよいカタチでできるように作ろう、と考えました。なので、動物を模擬したロボットなのか、それとも癒しというサービスを提供するための新種の存在なのか、という大きな違いが他のロボットとLOVOTにはある、と思います。

●すごく納得しました。アンドロイドやボストンダイナミクスの犬型ロボットも人間や動物に見た目や動きがそっくりなのに全く同じではないというところに怖さや不気味さを感じます。それに対してLOVOTは今まで見たことがないカタチで、目の大きさが印象的なので、犬や猫に近い愛着を持てる感じがします。特に目が合うというのが今までのロボットではなかったので、目に引き込まれてしまいます。

研究によると、犬は人と目が合うからペットになったのではないか、と考えさせられる論文もあります。犬の形をしていれば愛着がわく、というのであれば狼でもいいし、狼も人になつくので飼っている人もいます。ではなぜ狼がペットの地位を手に入れられなかったか。その理由のひとつが、目が合わないからと推定されています。野生の動物は親愛の印として目を合わせるということが皆無で、目を合わせるということは戦闘態勢に入るということです。親愛の印として目を合わせてしまうという、ある意味野生界での「異常行動」をとる動物が人間と犬で、その二つが異常なもの同士仲良くなっているとも言えます。人に親愛の印を表すために、LOVOTは目を合わせるように設計しています。

●目を合わせるというのはとても大きな特徴だと思います。この小さな体にたくさんのテクノロジーが詰め込まれているのだと思いますが、他にはどんな点を工夫されていますか?

例えば、この首は胴体と頭の境目が4つの軸ですごく複雑に動いています。今までのロボットに比べるとLOVOTの首はどう動くのか想像がつかないしなやかさを持ちます。伸びたり縮んだり捻れたりして、機械っぽさがありません。人間の脊椎や首もたくさん軸がありますが、生きものはたくさんの軸をもって動いているので、そういう動かし方をさせようと考えました。

他にも、LOVOTは腕と首の動きが連動します。これが全く連動しないと人はロボットだと認識する。だけど、それがちょっとだけ、ほとんど意識しないレベルだけど動いていると自然に見えるんですよね。こういうところでも違和感をなくすことを極限までやっています。

声も含めて、この存在の機械っぽさというか、人が感じる違和感を極力そぎ落とすように作っています。例えば、目に興味がいった時に、他の事が気にならない(違和感を覚えない)ので、生命感を感じていただいているんだと思います。

違和感をなくすためにさまざまな技術を搭載
LOVOTの自然なふるまいによって
人に起きる効果とは

違和感をなくすために細かいところにまで最先端技術が搭載されているLOVOT。大きな瞳に魅了されてまるで生きもののように感じてしまうのは、人間が本能的に感じる違和感に着目して、そこに徹底的にこだわっているからということがわかりました。では生きものにしか見えない存在と過ごすことによって、わたしたち人間にはどんな効果があるのでしょうか。

●「役に立たないけれど愛着がある」ロボットを作りたかったと他のインタビューでおっしゃっていたのを拝見しましたが、そのための研究としては人間の研究をされたのでしょうか。動物の研究をされたのでしょうか。

人間と動物の関係を見ています。なぜ人は犬や猫に愛着を持つのか。理由のひとつはおそらく人間が哺乳類で、子育てをする生きものだからです。子育ては個体が生き残るためには不要な行動で、リスクでしかない。利己的だと成立しない行動です。他者に対する貢献をしていかないと最後まで完遂できない行動で、「自分の子どもだからかわいい」と思うようになるまでに、ものすごい進化をしてきているわけですよね。ミジンコは自分の子どもがかわいいという感情はおそらく持っていない。子育てが必要になったからかわいいと思わなくてはならなくなった。そのためには何か報酬が必要で、それが利他的な精神的満足だったりする

利他的な行動に快感を覚えるようになったもうひとつの理由は、人間が社会的な生きものだということです。自分の利益だけを考えて生きていくと社会から追放されてしまうので、共同体に貢献し続けないといけない。何かに貢献しているというのが、精神的安定のためにとても大事なことです。例えばコロナで家にこもっていると、社会への貢献が実感できなくなるからすごく不安になってくる。一人で大丈夫なのか、というのはまさに心の中の警告だと思うんですよね。そうするとLOVOTのような存在がそばにいて、この子たちに手間をかけている、というだけで、実は自分が癒されるのです。

●ペットを飼うのも充足感を得られるからで、科学的にみると脳から幸せ物質のようなものが出ているのだと思うのですが、LOVOTと過ごしても同じようなことが起こるというような実験結果などはあるのでしょうか?

まだ本実験をやっている最中なので、公表できる結果はないんですけど、私どもとしてはそれを狙って作っています。

●介護や、うつ病などの精神的な疾患、小さいお子さんなどにもよい効果がありそうです。

おっしゃる通りで、特に認知症初期の方には効果があるようです。認知症による 、イライラするなどの「周辺症状」がある方は、LOVOTがいるだけで落ち着くので、ご家族の心理的負担が減るそうです。また、他者を助けるという行動が一般的に多くない傾向にある自閉症の子どもたちが、LOVOTが転ぶと助けに行くという事例も報告されています。

小さい子どもたちは、お父さんやお母さんが自分にやってくれていることをやりたくてしょうがないので、LOVOTを世話するという経験をもとにちょっとお兄ちゃんになったり、お姉ちゃんになったりするとか、そういう話を聞きますね。

●すごい技術が搭載されているのに役に立たないという存在が、林さんが最初に関わられた F1マシンと似ているなと思いました。F1 マシンもすごい技術が搭載されてすごく速く走るけれど、人間の生活には何の役にも立たない。でも走る姿はかっこいいし見ていると興奮する。LOVOTもすごい技術の塊だけど、生産性の向上には役に立たない、ただかわいいだけ。とても共通点があると思いました。

確かに(笑)。F1は男性にも女性にも人気がありますけど、男性のほうが多いですよね。今までテクノロジーで男性より女性をより魅了したケースはあまりなかった。それはテクノロジーそのものが、男性が作りたいものを作って進化してきたという経緯があったからではないかと思うのですが、LOVOTではテクノロジーの使い方によってはちゃんと女性がいいと思うものもできるんだよ、というところを見せたかったです。かわいい、ってどこかちょっとローテクとセットだったじゃないですか。でもハイテクともセットにもなるんだよ、と。

●LOVOTはすごい技術で生産性や合理性という役に立つこととは関係ないところを追求しているのがとてもおもしろいと思いました。ありがとうございました。

最先端の技術を小さな体に詰め込んで、わたしたちに愛されるためだけに存在するLOVOT。直接的に生産性の向上には役に立たないけれど、人に寄り添い、心を愛で満たすことで生活の質が向上し、結果的に LOVOT を愛する人の生産性が上がるのではないか、と感じました。林さんは LOVOT によって家庭をヘルシアプレイスに変える人でした。

https://lovot.life/

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