フィットネスマシンはどのような思いで作られている?

SPECIAL
2020.12.04

思いに応えてくれるフィットネスマシン

フィットネスジムにはたくさんのマシンが並んでいます。老若男女、さまざまな体格の人が、ボディメイク、体力アップ、肉体改造、モチベーションアップなど、それぞれの目的に合わせてマシンを使っています。世界最大の業務用フィットネス機器サプライヤー「プリコー(Precor)」プロダクトマーケティング担当の曽我友貴さんに、フィットネスマシンがどのような思いで作られているのかを聞きました。

職人気質な会社で生まれたマシン

本社はアメリカ西海岸シアトル近郊にあります。自然と街が近いためカヌー、スキー、サイクリング、ハイキング、クライミングなどスポーツが身近な場所です。コーヒーがとてもおいしい街です。プリコーは世界中のジム、ホテル、スパなどにフィットネス機器を提供しています。エニタイムフィットネスでも、全てではありませんがさまざまなマシンが導入されていますので、『ヘルシアマガジン』読者の皆さんの中にも、きっとプリコーのロゴを見かけたことがある人は多いのではないでしょうか。

プリコーの創立は1980年です。創業当時、人間工学に基づいたボートマシン(ボート競技の動きを陸上でもトレーニングできるように再現したマシン)を開発しました。そして、1990年には、初めてのクッション性のあるトレッドミル(屋内でランニングやウォーキングを行うためのマシン)を開発しました。以来、カーディオマシン(心拍数を計測しながら運動を行うマシン)など、フィットネス機器を発表し続けています。

社名のプリコーは「Precision Corporation」を縮めたもので、Precisionには「精密、精巧」という意味があります。直訳すると「精密な会社」となりますが、その名が示す通り、プリコーは職人気質なモノ作りをする会社です。そして、マシンは常に人間工学に基づいて開発を重ねています。プリコーの歴史は職人気質なエンジニアたちによる改良とイノベーションの歴史だと思います。

娘のために開発されたマシン

●フィットネスマシンはどのような思いで開発が行われているのですか?

プリコーにはシンプルな信念があります。『目的に向かって動く、情熱をもって動く、そして限界を乗り越えて動く。動くことは気持ちがいい』。その思いはフィットネス機器すべてに込められています。

私たちはこれまでにさまざまなマシンを作り出してきました。プリコーのスタートは1980年。自宅で使用できるエクササイズマシンの製造販売からです。トレーナーがいなくても、安全で効果的なエクササイズを行えるようにとの思いから開発しました。

プリコーがユニークなのは、自社だけで製品を作らず、外部の専門家たちと共に製品化していく土壌がある企業だということです。たとえば、1995年に発表した「EFX」というマシンがあります。これは、エリプティカルトレーナーと呼ばれるマシンで、人が乗るとペダル部分が楕円を描いて動きます。エリプティカルとは「楕円」という意味です。

EFXのベースは、ある発明家の娘さんへの思いが形になったものでした。彼の娘さんはテニスプレーヤーでしたが、ティーンエイジャーの彼女はランニングが大の苦手だったそうです。しかし、テニスのプレーには耐久力が必要ですよね。その発明家は、娘のプレーをビデオに撮って彼女の動きを研究しました。すると、人間の足の動きは楕円に近い軌跡を描いていることを発見しました。その動きを実際に走ることなく、マシン上で再現できないかと考えた発明家は、娘のために「Road Runner(ロードランナー)」というマシンを製作します。この発明によって、娘さんはランニングをすることなく、持久力をつけることができたのです。素敵なお父さんですね。

プリコーはオレゴン大学と提携し、Road Runnerのベースとなる理論の正当性を確認しました。さらに楕円運動に傾斜が変わると稼働する筋肉も異なることがわかりました。プリコーは自然な走行軌道と角度を組み合わせました。すると、傾斜があるほうが筋肉により負荷がかかり、効果的なトレーニングを行うことが可能になりました。そのような経緯でエリプティカルマシンであるEFXをこの世に生み出したのです。プリコーは職人気質な集団ではありますが、自分たちだけではなく、他の良いアイデアを取り入れる柔軟性のある会社だと思います。

1997年にはストレッチングの正確なフォームをサポートする「ストレッチトレーナー」を発表しました。トレーナーがいなくても筋肉のこわばりを解消し、関節の可動域を広げることができます。間違ったストレッチは逆効果ですからね。他にも、運動中の心拍数をチェックするカーディオマシンで運動開始時のパーソナルデータ入力を簡素化した『クイックスタート機能』を搭載するなど、業界の新しい常識を発信し続けています。

●開発にはどれほどの人と時間がかかっているのでしょう。

これは製品によっても異なりますので、一概に言えない部分もありますが、1つの製品にはエンジニア、デザイナー、トレーナー、ファイナンスなど15人くらい専門家が関わり、延べ100人以上の専門家から意見をもらって機能や安全面での検証を重ねています。1台のマシンは多くの人が関わって誕生するんです。

マシンの開発には長い年月が必要です。ゼロベースから考えると、社内でプロジェクトが動き、まずプロトタイプのマシンを作ります。それから社内テストを行った後、フィットネスジムなどで、専門家によるフィールドテストを行い、実際に使用した意見を反映して製品化されます。プロジェクトから出荷までの期間は18~30ヶ月ほど。平均すると2年ほどかかる計算ですね。

●実際にジムで体を動かしているとき、マシンに不安を感じることはありません。いつもどっしりと構えてくれているのは、フィットネスマシンがとても丈夫に作られているから。しかし、マシンはさまざまな人が使います。体格差、頻度、荷重、使用時間などもバラバラ。安全性はどのように担保されているのでしょう。

安全性はマシンにとってもっとも重要なことのひとつです。プリコー製品はフィットネスマシンの安全性を保証する規格基準を必ず超えるよう設計されています。想定するマシンの使用状況は1日8時間以上、365日、5年間使われ続けても問題がないスペックを基準にデザインされています。

シアトルにあるプリコーの工場に行くとラボで開発中のマシンを見ることがあります。私が好きなのが耐久性をテストするロボットです。人に見立てた重りを付けた機械がフィットネスマシンにドシンドシンと負荷をかけているんです。何百万回と、自然界では絶対にあり得ないような過酷な負荷をかけています。そんな環境の中でもマシンは壊れることなく動いているのです。

未来を作るフィットネスマシン

●これからのフィットネスマシンはどのようなものが誕生するのでしょう。曽我さんに尋ねると、「個人的な見解ですが」と前置きをしながらも語ってくれました。

これからは人生100年時代と言われています。私はぜひ長生きして、ひ孫の次の玄孫(やしゃご)まで見たいと思っています。その人生において健康寿命をいかに長く持続するかは大きな課題だと思います。もちろん、運動は大切です。しかし、それに加えて的確なアドバイスが必要ではないかと思うのです。最近はスマートウォッチが普及しはじめていますよね。これから、ウェアラブルデバイスはさらに普及するでしょう。これからは各個人が健康状態をより可視化し、生活習慣を見直したり、疾病予防などを行うようになっていくと思います。

たとえば、正確な血圧や心電図、心拍、ストレスなどパーソナルデータが分かるようになれば、マシンと連動することで安全に、かつ効果的なトレーニングメニューを組むことができます。集計したデータを元に健康管理をすることも可能でしょう。その時にメーカーとして対応していかないと、流れに乗り遅れるでしょうね。マシンとテクノロジーが融合するということは、社会とマシンが繋がっていくことだと感じます。その流れの中でまた新しいマシンが生まれてくるでしょう。時代によって、マシンは変化していくのだと思います。

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