靴と長く付き合う。
~靴磨きの世界~

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2021.04.19

皆さんは「靴磨き」にどのようなイメージをお持ちですか?路上でさっと磨いて…というイメージの方も多いのではないでしょうか。最近、靴磨きの世界が大きく変わっています。昔ながらのスタイルのお店もありますが、まるでバーテンダーのようにカウンターに立って磨くというスタイルが主流になりつつあります。しかし、靴磨きの目的はピカピカに輝かせるだけではありません。ケアを行うことによって、靴を飛躍的に長持ちさせることができるのです。今回は靴磨き職人・河村真菜さんに靴のケア、靴磨き、靴との付き合い方についてお伺いしました。

私が靴磨き職人になったのは、1冊の本がきっかけです。『イタリア人の働き方』(光文社新書)という本を読み、ロザリーナさんという靴磨き職人の存在を知りました。実際にイタリアに会いに行き、彼女の格好いい働き方に感銘を受け、「靴磨きっておしゃれだな」と感じたんです。それで靴磨き職人になりました。

私が磨く靴の多くは男性用の靴なのですが、女性も革靴を履きます。不思議なことなのですが、女性には自分の靴を磨くという習慣があまりありません(もちろん、磨く女性もいますが“圧倒的”に男性のカルチャーです)。男性の靴は基本的に100年くらいスタイルが変わっていませんが、女性の靴は流行があります。それに素材や色なども多様なので磨きにくいのかもしれませんね。中には流行が終わると捨ててしまうという方もいるようです。良質の革靴はケアをすれば50年以上履けると言われているのに、捨ててしまうなんてもったいない。私は女性も男性も関係なく、靴をケアするカルチャーが根付けばいいなと思っています。さて、まずは靴のケアのお話をしましょう。

毎日の革靴のケアのポイントは2つだけ

毎日のケアのポイントが2つあります。1つ目は、その日に履いた「靴のブラッシングをする」こと。これだけでOKです。靴の表面にほこりや汚れが付いていると、革の栄養成分や水分を吸い取ってしまいます。それが乾燥の原因になるのです。乾燥が進むとクラック(ひび、亀裂)が入ったり破れの原因になったりします。ブラッシングは見た目をきれいにする意味もありますが、靴の表面に何も乗っていない状態にするという役割があります。

2つ目が、「同じ靴を毎日履かない」こと。靴も人間と同じで疲れてしまいます。足の裏やつま先は、体の中でも汗をかきやすく、多い人は1日に両足で約200mLの汗をかくそうです。靴の内側の革が汗を一時的に吸ってくれているわけですが、自然乾燥するのに大体48時間くらいかかります。靴がカビてしまうと、カビを除去しても革に胞子が残ってしまう可能性もありますし、ほかの靴にうつってしまうことも。さらにシューツリー(シューキーパー)を入れて除湿できれば、履きじわを伸ばしたり、型崩れの防止にも効果があるのでいいですね。なければ、新聞紙を詰めておくだけでもいいと思います。

湿気がたまりすぎないように、数日に1度は下駄箱の扉を開けて空気を通すと良いでしょう。靴を買ったときの箱に入れっぱなしも湿気の原因です。箱で長期間保管しなければならない場合は、箱に小さな穴を開けておくと良いと思います。

靴は1日履いたら2日ほど休ませてほしいので、日常的に革靴を履いている方は3足と雨の日用の1足があるといいですね。このローテーションで履けば、結果としてそれぞれの靴の寿命が延びます。履きやすく、愛着のある靴は毎日履いてしまいがちですが、靴を長持ちさせるためには、靴を休ませることが重要です。

靴磨きの流れはメイクに似ている

次に靴の磨き方をお話ししましょう。必要な道具はほこり落とし用ブラシ、汚れ落とし用クリーナー、栄養を補う靴クリーム、靴クリームを革に浸透させるブラシです。さらに磨きたい方はワックス(ポリッシュ)と磨き用のクロスが必要です。いろんな道具が登場しますが、基本的にはメイクの順序と似ています。それを念頭に置くと靴磨きが身近に考えられるかと思います。

大まかな流れは、靴の汚れを落とし、栄養クリームを塗り、つやを出します。メイクの手順で考えると、クレンジング、洗顔、保湿、メイクといったところでしょうか。では、ひとつずつ解説していきましょう。

まずは汚れ落としです。靴を1日履くとほこりや汚れが付いてしまいます。何日も履いていて、それが蓄積すると…。かなり汚れている状態ですよね。まずはこの汚れを落とさなくてはなりません。毛の腰の強い馬毛ブラシで靴に付いた汚れを掃き出すようにブラッシングします。

次に柔らかな布にクリーナーを付けて汚れや古いワックスを除去します。これはメイクでいうところのクレンジングですので、丁寧に優しく行ってください。あまり強く何度もこすりすぎると革そのものの色まで落ちることがあります。靴に使われている革にも、人間と同様に毛穴があります。そこに入った汚れをそっと落とすイメージです。2ヶ月に1度くらいの頻度で革靴を“すっぴん”にすると良いと思います。

そして、“すっぴん”の靴に靴クリームを塗り込んでいきます。靴クリームには栄養補給、補色、光沢を持たせる効果があります。私はこの作業では、クリームを指で塗り込みます。体温でクリームを馴染ませ、靴に染み込ませていきます。手で靴の状態を知ることで、「乾燥でカサカサしているな」など、靴の状態が分かります。クリームは傷んだ革に栄養を入れるような意味合いもありますので、とても重要な作業です。

茶系の靴の手入れはこの工程が少し難しいです。茶色にも何種類もありますよね。色の濃さで迷ったら、まずは薄い色のクリームを試してみてください。そして、塗り込んだクリームをさらに革に馴染ませるために、ブラッシングをしていきます。これは馬毛より硬い豚毛ブラシを使ってください。

基本的にここまでの工程だけでも良い状態が保てますが、さらに光沢を持たせたい方はこの後、シューポリッシュ(つや出し、シューシャイン)という油性のワックスを塗って磨きます。布にほんの少量の水を含ませ、これまた少量のシューポリッシュを取り、小さく円を描くように塗っていきます。一気にやろうとせず、少しずつ時間をかけて塗っていきます。そして最後に、ブラッシングをしてツヤを出します。そうすると、靴がピカピカと輝きます。

靴磨きの店でプロに頼む

今はYouTubeでも靴磨きの方法が見れますし、本も多く出版されているので、そういうものを見てご自身で磨くのもいいと思います。ご自身でお試しになった上で、靴磨き職人に頼み、目の前で磨いてもらうと気づきが多く上達するでしょう。私もイベントでお客さまの前で磨くことがあります。学びたい気持ちがあるお客さまが多いように思いますね。その姿勢は素敵だと思います。毎回の磨きごとに、私たち靴職人から新しい学びがあるそうです。その靴に対しての靴クリームやワックスの硬さの選び方など、本当に細かいところをご覧になっていて、お客さまも毎回レベルアップしているような感じがします。

靴を見ると一目で手入れをしているかが分かります。私は足元までちゃんと気を遣っている人って、なんだか信頼できる方だなと思いますね(笑)。ケアをして何年も履き続けている靴は本当にきれいだと思います。革靴を履けば必ずしわが入るのですが、しっかりしたフィッティングの靴は、大きなしわが1本入ります。そんなきれいなしわの入った靴を磨くとき、「ああ、このお客さまは自分のサイズをちゃんと分かっていらっしゃるな」と感じます。見た目だけで選ばず、自分のサイズを分かって購入している。大人として格好いいことだなと思いますね。

時間をかけて靴を選ぶ

専門店や百貨店で販売している既製品の革靴は数万円から30万円くらいの価格帯です。高い靴にはもちろん理由がありますが、高い靴であれば長く履けるというわけではなく、お手頃な価格の靴もきちんとケアをすれば長く履けると思います。

私が靴選びで一番大事だと考えるのが「サイズ選び」です。これがとても難しく、永遠のテーマと言ってもいいでしょう。履き心地を優先させてしまうと、つい大きいサイズを選びがちです。しかし、革靴はたいていの場合、タイトフィッティングが良しとされます。隙間があると靴にも足にも負担がかかってしまうのです。お店で靴を選ぶ際は、足長だけではなく横幅も測ってもらってください。フィッティングにもちゃんと時間をかけて、自分の足に合うものを選ぶことがとても大切です。

靴と向き合って、長く付き合う

靴は自分でケアをすると、必ず返ってきます。対話が一方通行じゃないんです。じっくり靴と付き合うと、今まで気にしていなかったことが気になってきます。それを解決してあげると、靴の状態も良くなるし、履き心地も良くなる。お互い高め合うかのように、ちゃんと靴と向き合える。

今、私が履きやすいと思っている靴は6年ほど履いています。購入当初より、断然履きやすくなっているんです。そうすると、さらに愛着も湧きますし、磨きやすくもなるんです。本当に不思議です。この靴磨きの魅力・楽しさをたくさんの人に知っていただきたいですね。

PROFILE

河村真菜
愛知県出身。友人から借りた本『イタリア人の働き方』に感銘を受け、靴磨き職人へ。名古屋にある靴磨き専門店『GAKUPLUS』にて修業を積み、2019年より東京の『GAKUPLUS TOKYO』のオーナーに。現在は、公式LINEで靴磨きの注文を受け付けているほか、靴磨きイベントにも多数出演。
Instagram:@mana_kawamura
LINE:@436jwqai


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