俳優 秋元才加さんインタビュー
<私は体と対話する。舞台に立ち続けるために>

文・井上英樹(monkeyworks)イラスト・平戸三平
Special
2020.11.09

役と向き合い体で表現する、俳優として

日本中の誰もが知るアイドルグループAKB48の元メンバー・秋元才加さん。現在、俳優として活躍する秋元さんは、今年、ハリウッド映画への出演を果たしている。スクリーンには雑誌やテレビで見る明るくてやさしい彼女ではなく、鍛え上げた体でストイックに役になりきる姿があった。Instagramでもトレーニング後の姿をアップするなど、常日頃から、強くしなやかな体を維持する秋元さんに健康観や表現者としての体づくり、そして人生観を聞いた。

自分の体を好きになるまで

●秋元さんが自分の体と対話をするようになったのはAKB48卒業後だという。当時、秋元さんは25歳。自らがイメージする体と当時の状態には大きな乖離(かいり)があった。アイドル時代は肉体と精神ともに疲労困憊。しかし、その疲れすら客観的に理解できていなかった。仕事に没頭し、がむしゃらに突っ走っていたのだ。秋元さんにデビューから現在までの体の変化、そして今の自分の体をどう思うか訊ねてみた。

「この年齢になってやっと好きになってきましたね。これまで、失敗を含めて様々なワークアウトをやってきました。最近、自分がなりたい体に近づけるようサポートしてくださるトレーナーやトレーニング方法を見つけることができました。昔より今の体のほうが好きだし、若い頃よりバランスがいいと思います。

……AKB時代は本当に忙しかった。ライブでは1日に2、3キロ体重が落ちるんですよ。一度にお弁当を2つ食べないと体が持たなかったですね(笑)。体のケアやパフォーマンスを上げるためのトレーニングができていなかった。卒業前はイメージと体との間に大きなズレが出てきていましたね。

卒業前に個人でのお仕事が増え、制服以外の衣装を着るようになりました。そうすると、自分の体の大きさが目立つんです。バスケをやっていたので下半身がしっかりしていたし、筋肉がつきやすい体質ですし……トータルバランスが悪いなと感じていて、それがコンプレックスでした。

舞台やミュージカルに出ると、AKB時代とは“使う筋肉”や“意識する筋肉”が全く違うんです。その頃から、『私はアウターの筋肉はついているけど、歌うためのインナーはついていないな』と意識するようになりました」

●秋元さんは独学でトレーニングを始め、やがてパーソナルジムに通うようになる。しかし、初めて通ったジムでは体を大きくするようなトレーニングメニューをメインに教えてもらったそう。トレーナーの指導方針と目指す体との間で秋元さんは悩む。

「私はしなやかなラインにしたいのに、その時のトレーナーさんには『秋元さん、肩とお尻をでかくしましょう!』って言われました。たしかに、ほかが大きくなるから、ウエストが細く見えるんだけど、『目指す方向とちょっと違うかも?』と、数カ月やってみて気が付いたんです(笑)。

そこでわかったのが、私のなりたい体というのは、“芯はあるけどしなやかな体”なんです。ただ単にムキムキになりたいわけじゃない。いろんなトレーニングを経験したことで、自分の理想に気付くことができました。

それに、ボイストレーナーの先生に『過度な筋トレは声が響かなくなる』と注意されたんです。ほら、赤ちゃんの体ってふわっふわじゃないですか。そして、すごい声で泣くでしょう。体全体が共鳴する。赤ちゃんは体の使い方が上手なんです。体を楽器にしていて。そうするためには、アウター優位ではなく、インナーの筋肉もないと歌えないんですね。

私はインナーが弱いので、今はピラティスなどで柔軟性も高めつつ、負荷をかけすぎない自重中心でのトレーニングをしています。あとは、ランブルローラーやトリガーボールを使って、常にほぐすことを意識したり。自分の体って、自分にしかわからない。自分が頑張った分、体は変わる。トレーニングって終わりがないなと思いますね。

芸能界には素晴らしい方々がいます。その方たちに出会う度、努力をしなくてはと思います。ボイトレも筋トレと同じで、続けていかないとダメ。“歌うための筋肉”がある。お芝居によって、必要な肉体、筋肉も変わってくる。人間の体って奥深いな、面白いなって思いながらその時の仕事に応じてトレーニングをしています」

ハリウッド映画の現場で学んだリアリティ

●秋元さんは2020年公開の映画『山猫は眠らない8』に出演した。彼女は「ヤクザに鍛えられた暗殺者ミフネ・ユキ」という設定。通称はレディ・デス。銃を持っても違和感がないように上半身に筋肉をつけて撮影に臨んだという。格闘シーンでは重心を低くし、鋭いキックやパンチを繰り出した。しなやかなで力強いヒールっぷりは、これまでステレオタイプに描かれることの多かったアジア人俳優の印象をアップデートしただろう。秋元さんは世界の映画ファンにその存在感を示した。

「銃を持つリアリティを出すのも、俳優の仕事のうちなんです。出演者の中で私だけ体の線が細くてはだめなので、アウターの筋肉をつけ、帰国後にラインを戻しました。幸いだったのが、チャド(チャド・マイケル・コリンズ)さんはそれほど体が大きくなかった。相手がでっかいマッチョだったら、私がいくら体を大きくしても、体格差で勝てるわけがないと思われますよね(笑)。そこは助かりました。

日本人には、まだニンジャ、サムライのイメージがあります。つまり静と動の演技。私も『止まるときにちゃんと止める』ことを求められました。体の軸がしっかりしてないとフラフラしちゃう。日頃から体幹を鍛えていてよかったと思っています。

役が決まってから撮影に入るまでそれほど時間がなかったのですが、上半身を少し大きくしてからカナダに行きました。現地でのアクションの練習がハードだったので、さらに筋肉がつきましたね。撮影では、男性と一対一で闘うアクションシーンでも、高いリアリティを求められます。本当に殴っている重さ、強さが欲しいと言われる。だからパンチでも蹴りでも振り切る。そうなると、止めるのにも力が必要です。精一杯やっても、『もっと!もっと!』と要求されて、日本では体力がある方だと思っていたけれど、きつかった。ガンアクションにしても求められる表現レベルが高いので、そりゃ、海外の役者は自ずと体を鍛えるよなって思いましたね。

だからこそ、私もリアリティはできる限り追求したいと思っていました。アクション監督が私と同じフィリピンにルーツがある人だったこともあり応援してくれて、通常はスタントがやるシーンでも『サヤカ、挑戦してみないか?』と、アクションを増やしてくれました。

最近は日本作品でも女性が銃を持ったり、強い女性のキャラクターが登場したりしている。私にもまたアクションのチャンスが来たらいいなと思います。元警官から実弾でのトレーニングを受けて撃ち方をしっかり教わったので、次に銃を持つ役があったら、私だけ前かがみで黙って相手を狙います(笑)」

これからの長い俳優人生を歩むために

●最後に改めて、秋元さんはなぜ体を鍛えるのかを聞いた。

「トレーニングで体が変わってくると、気持ちも変わる。自分の個性を前向きに考えられるようになりました。コロナ自粛期間中もオンラインレッスンで体を動かしたり、近所を散歩したりしていました。それだけでも気持ちが楽になる。私にとって運動は欠かせませんね。その気持ちがどこから来るかというと、『常に前進していたい』という思いからかな。過去の自分より成長した自分でいたい。そういう思いが私の根本にあるんです。

そして、自分の体を知るということは、自分を知ることなんですよね。体って正直なんです。だから“体の声”を聞き、体という“器”を大切にしてあげたい。……AKBの頃は常に気が張っていて、力を抜くことができなかった。心も体もガチガチ。だけど、トレーニングをすることで心と体が徐々に対話できるようになったと思います。今は客観的に自分を見ることができている感覚です」

●現在、秋元さんは30代前半。これから、30代中盤、後半、40歳と歳を重ねていく。きっと、秋元さんは見かけの若さや美しさを追いかけるのではなく、様々な経験をご自身の姿に刻んでいくのだろう。

「体は自分が亡くなるまでつき合っていくものですよね。30歳になったとき、『体が変わってきたな』と感じました。筋肉質だった体が、丸みを帯び、出産に向けた体になっていった。……女性の体って、すごく神秘的で面白いなって思います。変化も年齢に抗うのではなく、その年齢で自分が一番美しいと思える体になりたい。そのために運動していきたいと思います。

それに、私が格好いいなと思う先輩方は足腰がしっかりなさっていて、背筋がピンとしておられる。足腰がしっかりしていれば、年齢を重ねてもお芝居ができる。お芝居の表現の中に身体的能力は絶対必要になってくる。少しでも長くお芝居やエンタメの世界に携わっていくためにも、私はトレーニングをしているのかもしれません。……今、話をしていて、それに気が付きました」

PROFILE

秋元 才加(俳優)
1988年生まれ。千葉県出身。AKB48第2期生としてデビューし、2006年から2013年まで活動。現在は俳優として映画、ドラマ、舞台に出演するほか、テレビ番組のMCなど幅広く活躍中。2020年には『山猫は眠らない8』でハリウッドデビューを果たした。TwitterやInstagramも積極的に用いてファンとの交流を図る。『山猫は眠らない8 暗殺者の終幕 ブルーレイ&DVDセット』は2020年12月2日にソニー・ピクチャーズエンタテインメントより発売。
https://bd-dvd.sonypictures.jp/sniper8/


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