未来学者 小川和也さん インタビュー
<未来に対して個人ができること>

文・井上英樹(monkeyworks)イラスト・木下ようすけ
Special
2021.02.22

COVID‑19(新型コロナウイルス)による世界的なパンデミックが発生し、私たちは不安な日々を過ごしています。先行きが不透明な今、冷静に行動し個人や企業がテクノロジーを用い、早急に時代に対応する必要があると説く未来学者(フューチャリスト)の小川和也さんに、テクノロジーの可能性について伺いました。

未来学者は現在のコロナ禍をどう見ているのか?

正体の分かりにくいウイルスは人をパニックに陥れる。発生から一年以上経過し、新型コロナウイルスは世界から簡単には消滅しないことが分かってきました。すでに人類と共存しているインフルエンザのように、新型コロナをいつどのように常態的(普段の状態)な位置付けに変えられるかを考えた方が良いと私は思っています。

常態化への道筋のひとつはワクチンでしょう。しかし、これもインフルエンザと同じで、100%感染を防ぐことは難しい。ワクチンを用い、インフルエンザに近い扱いに「どこでどのようになれるか」がポイントではないでしょうか。

●新型コロナを完全に克服する「アフター・コロナ」ではなく、共存する「ウィズ・コロナ」の世界の方が現実的だと小川さんは考える。一方で、世界中の科学者や実業家たちは、パンデミックに対して警告と準備をしていた。人口増加と食糧問題(人と動物との接触が増えると未知のウイルスに感染する確率が高くなる)から、パンデミックが「来る」ことは確実だったのだ。

コロナ禍以前から私はリモートでの仕事が常態化していました。私の会社全体としても、2020年3月から完全にリモートに移行しています。感染症対策が加速要因ではあっても、それによって得た気づきがある以上、以前の状態に戻すのではなく前向きに進化したい。今の状態をベースにコミュニケーションの方法を含め、最適解を探す旅が始まっている。それにすでに対応できるテクノロジーを私たちの社会は持っていますし、さらなる発明が求められます。

今回の新型コロナウイルスも、未知に対する恐怖、内部構造や動作原理が解明できないブラックボックス的な不安が覆いかぶさります。この50年を振り返っただけでも、薬や医療の劇的な発展で治療方法が見つかりブラックボックスから脱した病気は数え切れません。100年前のスペイン風邪(悪性のインフルエンザ)やペストなどにも未知に対する恐怖がありました。医療やテクノロジーが発展した現代でも、デマや過剰な思い込みから、結果としてパニックになる。私はこのパニックを見て、人類がやがて体験するであろう人工知能が生み出すブラックボックスへの恐怖を垣間見たように感じました。

●小川さんが2019年に出版した『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)には、“これからの社会はテクノロジーが便利にする面と、不安にする面があり、明と暗がカウンターになる”と指摘がある。

明と暗、テクノロジーには二面性があります。多くの科学者や技術者が注目しているテクノロジーはAI(人工知能)です。一言にAIといってもさまざまなものがあります。今のAIは計算能力、言語の解析、自動運転などを行う『特化型AI』がメインです。

世界中で人間の脳に近い構造の『全脳アーキテクチャ』や汎用人工知能の研究が進められています。2045年には全脳アーキテクチャのような人工知能が人類の知能を超える『シンギュラリティ』(技術的特異点)に到達するという提唱もありますが、そのレベルにおいては、「え?どうやってその結論が出たの?」というような、人間が理解できないブラックボックスが増えてくるでしょう。

今はまだ入り口なので、無邪気にAIを開発してもいい時期です。シンギュラリティに到達するには時間を要し、2100年以降になるのではないかと考える慎重な科学者もいます。やがて、AIが自走化し、人間が理解できないブラックボックスが生まれた際、私たちはどのように振る舞うでしょうか。「どうなってるの?このウイルス。」と、今の私たちのような不安な状況が訪れるのではないか。私はコロナ禍と、やがて来るAI社会を重ねて見ていました。

困難に向かい合った時、人はテクノロジーを発見する

●テクノロジーには二面性があるという小川さんの指摘を聞くと、急激なテクノロジーの進化に恐れを抱く。しかし、小川さんはそれでもAIの力を借りて社会問題を解決すべきだという。

人類は温暖化、ウイルス、自然災害、人口問題など、AIの力を借りて解決しなくてはならない問題や社会課題が山積しています。今、多くの人の関心事は新型コロナだと思うのですが、ワクチンの問題や、感染者数などの情報に触れるたびに一喜一憂することが続くでしょう。自由に海外旅行に行ったり、外食をしたりできる世界になるのは、今日明日の話ではないと思います。もがきながら、コミュニケーションや仕事のやり方を抜本的に変えるテクノロジーが登場するでしょう。歴史を振り返ると人類は、困難に向かい合った時に新しいビジネスやテクノロジーを見つけます。私たち人類はそういうことが得意なんです。

●会社や学校でもリモートワークが増え、この一年で大きく社会が変わった。「以前のような世界」に戻るまでと我慢するのではなく、「突然やって来た未来」に対応した方がいいのだろうか。

厳しく辛い環境は事実であり、個々人が置かれた環境もまちまちです。悲痛な声も直接耳にします。しかし、乗り越えることでしか未来がないとすれば、この状況にいち早く適応してどのように進んでいくのかの試行錯誤をするしかありません。この段階でも、さまざまな課題や分断が見えてきました。問題に対して前向きに捉えるか、もしくは一喜一憂して閉じこもってしまうか。それを自然界から問われていると思うのです。

「個人産業革命」ではありませんが、個人・法人という両方の単位で「革命」をしていくしかない。置かれた業界や会社を憂いていても時間は着実に流れていきます。数年後に悔いても時間は取り戻せませんから、他責に終始したり組織に依存したりせず、個人としての革命を起こす契機と捉えられたらと思います。

今、Amazonの主力事業に「AWS(アマゾン ウェブ サービス)」というクラウドサービスがあります。要は、企業や国にサーバーの「空き」を貸しているわけです。事業の戦略性に感嘆し、「すごい戦略ですね」と経営に携わる方に尋ねたことがあります。すると、「狙い澄ました戦略というより、自分たちの持っているものをフル活用できているかどうかを常に自問自答している結果にすぎない」という答えが返ってきました。「自分たちの持ち物を使い切れているか」を突き詰めるカルチャーがあるんですね。

ここに大きなヒントがあると思う。日本の会社も個人もたくさんのアセット(資産)を持っている。ですが、無駄にしているものがあまりにも多い。まずは、どんなに小さなものでも自分たちの持っているアセットの棚卸しをする。そして、急激に新しい方向に行く前に、アセットを使い切れているかを見極めるところから始めると革命のハードルも下がるはずです。私たちは、この先の未来で自然災害や未知のウイルスなど、とんでもないことに遭遇するでしょう。対症療法的に一つひとつしのぐよりも、常日頃から自分のアセットを最大限棚卸ししながら、「とんでもないこと」に対応していくしかないと思います。知恵や経験、そして人とのつながりは、その最たるものです。

近い未来に起こること

●小川さんが言うように新型コロナの登場で会社も個人も大きな行動変容を求められた。テクノロジーの発達で世界はもっと変わっていくのだろうか。小川さんが近い未来で、楽しみなテクノロジーは何だろうか。

2021年に入ってから招待制音声チャットソーシャルアプリケーションの『Clubhouse』が 盛り上がりを見せています。これを使った時にソーシャルメディアのティッピングポイント(転換点)が来たなと思いました。雑談や小さな集会をカジュアルにできる気楽さがいいですよね。基本は井戸端会議なのですが、大きくやろうと思えばセミナーを開催することもできます。次に大きな災害が来た時に、Clubhouse上で災害対策会議ができるでしょうね。

さらに情報が中央管理されないブロックチェーンタイプの民主的でメガなコミュニティが出現する予感もしています。Clubhouseの盛り上がりを見ていても、みんな新しいソーシャル・ネットワーキング・テクノロジーの登場を欲しているように思いますね。

近い未来でいうと遠隔治療が発達するでしょう。2050年代には世界の人口が100億人を突破するという予測がありますが、日本の労働人口は5000万人を切り、3100万人の労働人口不足が予測されています。人口比率も4人に1人が高齢者という社会です。都市部以外での医師不足は避けがたい。遠隔治療の際、基礎的な診断やフォローはAIによるバーチャルドクターが処置してくれるようになるでしょう。AIドクターができる処置と、人間のドクターでなければできない処置、その役割分担が見直され続けるはずです。医療領域のAIは今後の発展が楽しみな分野です。

今、私が最も注目しているのは、コンピューターシステムの設計に感情や刺激を入れていくテクノロジーです。人間の脳の研究で、感情のメカニズムの解明は進んでいます。喜び、悲しみ、飽き、刺激などを定量化(特性に即した数量として表すこと)するチャレンジが積み重ねられている。つまり、喜んだり、悲しんだり、怒ったりする機械を作ることは可能です。

このテクノロジーを家電に組み込めば、部屋が汚れていたら愚痴を言うロボット掃除機とか、室温が高くなりすぎたら「暑かった? ごめんね~」と詫びるクーラーを作ることが可能です。ジムのマシンに感情を持たせることもできますね(笑)。トレーニングする際、基本的にはひとりです。だけど、「負荷が重すぎた? ちょっと下げようか?」とか、大きな音を立ててウエイトを落とすと「痛い!」とか言ったりすると機械とコミュニケーションが生まれる。

「寡黙」であるはずの鉄が感情を持ったら、トレーニングはもっと楽しくなるかもしれませんね。話すのは機械ではあるけれど、AIによって論理的な感情を持たせているわけだから、人間の感情とシンクロできる余地は多分にあります。もちろん、人間には複雑な感情や気持ちがあります。いくらAIとはいえ複雑系は難題ですが、感情は数理モデルに置き換えられる部分もあります。機械に感情を組み込むテクノロジーを使えば、ずっと家の中でひとりで過ごしても孤独を感じない。ペットと暮らすことに近いかもしれないですね。

コロナ禍で、環境の変化に戸惑っている人も多いかもしれません。しかし、自分の持っている能力(たくさんあるはずです)と、新しいテクノロジーを組み合わせると、違ったものが見えて来ると思います。そうすれば、世の中はもっと明るく、楽しい世界になるでしょう。

PROFILE

小川 和也(Kazuya Ogawa)
アントレプレナー / 未来学者(フューチャリスト) グランドデザイン株式会社 代表取締役社長、北海道大学客員教授。起業家、研究者、著作家として、ばらばらの点をつなげて未来をつくる活動をしている。起業家として独創的な事業を生み出し続け、2017年、世界的に権威のあるマーケティングアワード「DMA国際エコー賞」を受賞。北海道大学客員教授として人工知能の研究と社会実装、未来への提言を行っている。


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