SpecialVol.17

みんなの「うれしい」をつくる
認定NPO法人
おてらおやつクラブ

「認定NPO法人おてらおやつクラブ」は、お寺にお供えされるさまざまな「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、子どもをサポートする支援団体の協力の下、さまざまな事情で困り事を抱えるひとり親家庭へ「おすそわけ」する活動です。寺院がこれまで地域社会で担ってきた役割を現代的な仕組みとしてリデザインし、既存の組織・人・もの・習慣をつなぎ直すことで無理なく機能する仕組みの美しさが高く評価され、2018年にグッドデザイン大賞を受賞しました。広報担当の野田芳樹(林昌寺)さんに、「認定NPO法人おてらおやつクラブ」の活動について伺いました。

「ある」と「ない」の
マッチングで
子どもの貧困に取り組む

活動のきっかけを教えてください。

お寺では檀家の皆さんから、仏さまやご先祖さまへのたくさんのお供えをお預かりします。お供えは「おさがり」として私たちがいただきますが、食べきれないこともあります。お供えの食べ物を無駄にしてしまうというのは、実は多くのお寺が抱えている課題でした。

一方で、社会に目を向けてみると、子どもの貧困問題が課題として注目されるようになりました。厚生労働省の2019年の調査によると、7人に1人の子どもが貧困状態にあると言われています。これはコロナ禍を経て、現在はもっと悪化しているのではないかと思われます。

お寺にはお供えを無駄にしてしまうという課題があり、社会には食べるものがなくて困っている子どもが増えているという課題がある。「ある」と「ない」を組み合わせると、それぞれが抱える課題を解決できるのではないか、ということで生まれたアイデアが「おてらおやつクラブ」という活動です。

最初は奈良県にある安養寺の松島靖朗さんが1人で始めました。松島さんの活動を知った他のお寺も、子どもの貧困問題は待ったなしの課題だと感じている、あるいは、うちのお寺もお供え物を無駄にしてしまうことがあり困っている、というようにどんどん共感を生んで、現在は全国で1,800以上のお寺が参加しています。

私も、お供え物をもったいない扱いをしてしまうという課題を抱えていました。これを必要な方にお届けできないか、寄付できるところがないかといろいろ調べていた時に、たまたま「おてらおやつクラブ」の活動をウェブ上で知りました。

最初は自分の困り事を解決したいと考えていただけで、子どもの貧困問題については全く知りませんでした。活動を始めて、お寺のお供え物が無駄になることは減り、自分の課題は解決できました。しかし活動を通じて寄付先の団体さんや、実際に困り事を抱えていらっしゃるお父さん、 お母さんからメッセージをいただくことが増えるにつれて、お礼の言葉とともに、困っていらっしゃる方の事情も知ることになります。

例えば、ダブルワーク、トリプルワークで子どもと接する時間がないとか、行政の支援を受けたくても窓口が開いている時間は働いているので行けないとか、お子さんが発達障害を抱えているとか、ご自身が病気になってしまったなど、さまざまな理由を聞く機会があり、自分の課題は解決できたけれども、全然「めでたし」じゃないなと思ったのです。

子どもの貧困問題という大きな課題に取り組むことはとても大切なことで、長い時間をかけて取り組んでいく必要があると考え、今では「おてらおやつクラブ」の事務局で、理事として組織のマネジメントにも関わらせてもらっています。

誰もが本来持っているはずの
優しい心を育んでいく

「おてらおやつクラブ」の活動を教えてください。

やっていることはシンプルで、お寺でお預かりした「おそなえ」を仏さま、ご先祖さまからの「おさがり」としていただいて、困り事を抱えていらっしゃるご家庭とか、子ども食堂や児童養護施設、地域の社会福祉協議会など、子どもを支援する団体さんに「おすそわけ」をしています。「おそなえ」「おさがり」「おすそわけ」がキーワードです。

お寺のお供え物を事務局で集めて発送するのではなく、各お寺がそれぞれ集まったお供え物を自分たちで箱詰めをしてお送りするので、月に1回とか、年に何回といったノルマがあるわけではありません。私のお寺は、今は月1回のペースで発送していますが、お供え物はいつどれだけ集まるか分かりませんので、集まった時に発送していただければいいですよ、ということにしています。中には週に1回という頻度が高いお寺もありますし、逆にお盆とお彼岸の時だけというお寺や、年4回というお寺もある、というようにさまざまです。

目標はありますか?

もちろん子どもの貧困を解決することです。ただ、それは一足飛びにはいきません。子どもの貧困問題で我々が最も大きな課題だと思っているのは孤立です。「助けて」という声が上げられない背景にはいろいろな理由がありますけれども、例えば、ひとり親になって困窮を抱えても自己責任だと言われることです。そういう風潮が根強くあるので、境遇を打ち明けられないとか、子どもがいじめられたらどうしようと考えて、なかなか助けを求めることができない。だから、日本の貧困は目に見えにくいと言われます。

そこで、孤立させないために地域の中で助け合いの心を育てる、「助けて」と声を上げてもいいんだと思えるような土壌を耕していくことが大切です。この活動をお寺がやっている意義はそこにあると思っています。お寺はコンビニより数が多くて、全国に7万軒以上あると言われています。全てのお寺が参加するのは難しいかもしれませんが、地域に点在するお寺が困り事を抱えていらっしゃる方に寄り添っていく。具体的に言えば、お寺と地域の支援団体さんがより連携を密にすることによって、例えば困り事を抱えた人が来たら、「ここに行ってみれば」と支援につなげていくことができます。地域の中で見守りのネットワークを育んでいく。皆さんが本来持っているはずの優しい心を育み直していくのが「おてらおやつクラブ」の大事な活動なのではないかと考えています。

「おてらおやつクラブ全国巡回展~たよってうれしい、たよられてうれしい。~」の展示風景(京都市上京区 本昌寺)
「おてらおやつクラブ全国巡回展~たよってうれしい、たよられてうれしい。~」の展示風景(京都市上京区 本昌寺)
「おてらおやつクラブ全国巡回展~たよってうれしい、たよられてうれしい。~」の展示風景(京都市上京区 本昌寺)
「おてらおやつクラブ全国巡回展~たよってうれしい、たよられてうれしい。~」の展示風景(京都市上京区 本昌寺)
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檀家さんに「おてらおやつクラブ」の活動をお話しされてからお供えの中身に変化はありましたか?

私のいるお寺では檀家さま方から通常の法事でのお供え物に加えて、スナック菓子やジュースなどをお供えいただくことも増えました。中には寄付をくださる方も。『和尚さん、大変だろうけど頑張って続けてね。』と声をかけてくださる方もいて、私自身が活動を通じて活力を頂いています。

おまんじゅうとかせんべいが多かったのが、ホットケーキミックスとか、レトルト食品のような食事になるもの、子どもが喜びそうなものが増えたという他のお寺のお話も聞きました。「おてらおやつクラブ」に出すんだったらレトルト食品の方が亡くなったおじいちゃん、おばあちゃんも喜ぶと思うから、とお供えくださったそうです。

気負わず続けて
みんながうれしい「三方よし」

子どもの貧困問題は、普段なかなか気が付けない社会課題のようにも思いますが、私たち一人ひとりが何かできることはあるでしょうか?

まず知ることです。それがスタート地点です。何かしたいと思った時に関わり方はいろいろあると思いますが、「おてらおやつクラブ」にぜひご協力をお願いします。年末年始は非常に困窮度が高まりやすい時期でもあります。何かと物入りだし、暖房費もかかります。また冬休みになるとお子さんが家にいらっしゃるので、食費や水道光熱費もかさみます。今、歳末に向けて支援の準備をしているところですので、活動の基盤を支えていただける寄付は非常にありがたいです。もちろん、お近くのお寺さんをウェブ上で調べて、お供えを持っていってもらうのもとてもありがたいです。

いずれにしても無理をしないということだと思います。背伸びをするとどうしても続かなくなってしまいます。支えたいという優しい思いがあるにもかかわらず、自分がしんどくなると本末転倒で、言い方は悪いですけれども、共倒れとも言えるわけです。お寺さんにも無理なくそれぞれのペースでいいので、その代わり長くお付き合いくださいとお伝えしています。共倒れになることを防ぐこともありますが、子どもの貧困問題は一朝一夕で解決するのは難しいので、細く長く関わっていかなければならない。もっと言えば、子どもたちが成長して大人になっていく過程を共に見守っていくことが大事だと思います。

エニタイムフィットネスでも2022年8月15日(月)から9月4日(日)の3週間、会員さんたちがマシンで走った運動エネルギーを子どもたちの栄養に変える会員参加型チャリティイベント“Work out for Children feat.『Calorie Mate』”を全国10店舗で同時開催し、600,000kcal分のカロリーメイト6,000本(1,500箱)を「おてらおやつクラブ」に寄付しました。

エニタイムフィットネスの支援は他にはない面白い取り組みですね。アイデアもですが、会員さんに活動を繋いでくださったことがとてもうれしかったです。

自分たちには何ができるのだろうと、皆さんが想像力を働かせて、フィットネスジムならではのことをやろうと考え、実現してくださった。さらにいろいろな店舗がSNSで積極的に発信してくださって、特に東京の田無店さんの熱量はすごいなと、こちらの事務局内でも話題になりました。

カロリーメイトはとても喜ばれます。子どもだけでなく、忙しい親御さんは食事を取る時間もない方もいらっしゃって、ぱっと食べられて栄養になるものは本当に喜ばれます。カロリーメイトが入っていてうれしかったですという声も実際届いているんです。

この活動で、ジムに来てくださる方に「おてらおやつクラブ」のことを知っていただけるし、逆に何も知らずに、自分の筋肉のためにやっている、あるいはダイエットのためにやっているのに、結果的に子どもの貧困に寄与しているというその仕組みがすごいと思います。自分のためにもなるし、子どもたちのためにもなっているというのは、本当にすごい。ありがとうございました。

気負って子どもの貧困のために何かやるぞ、というのももちろん尊いし、大切なんですけれども、自分がやっていることが期せずして間接的に子どもの貧困の解決につながっている、こういう活動が大事だと思います。檀家さんたちのお供えも同じです。亡きお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんのためのお供えが、結果的に子どもの貧困問題の解決につながっている。気負いなく取り組めるし、亡くなったおじいちゃん、おばあちゃんもきっと喜んでいるよと言ってくださる檀家さんもいて、お寺もうれしいし、檀家さんもうれしい、届け先の家庭もうれしい、みんなが喜んでくれる、「三方よし」です。

「たよってうれしい、
たよられてうれしい。」
うれしいが循環する活動

私たちが最近掲げているのは「たよってうれしい、たよられてうれしい。」という言葉です。「たよってうれしい」は、困っている方が声を上げたことによって自立の糸口をつかめてうれしい、「たよられてうれしい」は、寄付や寄贈をくださる方の多くが、「支援をさせていただいてありがとうございます」という優しい言葉をくださいます。誰かに手を差し伸べて力になっていることが、その人の喜びにつながっていることが増えていると実感します。そうやって支援を受ける方だけじゃなくて、支援したい、誰かのためになりたいと思っているけれども、何をしたらいいか分からないという人にも活動を開いていくことで、その優しい気持ちの受け皿になることによって、多くの立場の方、いろいろな立場の方の「うれしい」をつくっていける活動になっていきたいと考えて出てきた言葉です。

エニタイムフィットネスに通ってくださる皆さんや、そこで働いている皆さんも、無理なく取り組んでいただきたいという願いがあります。結果的に自分がやったことが困っている人たちの力になっている、消えていったカロリーは天に召されたわけじゃなく誰かのためになったんだ、と思って、そこに喜びを感じていただければ、私たちとしてもこんなに嬉しいことはありません。そういう「うれしい」が循環していくようなそんな活動にしていきたいというのは常々思っています。

取材の日、林昌寺さんには地域のボランティアさんが集まり発送作業をされていました。作業の前に車座になってそれぞれの近況を報告し、それから作業が始まります。野田さんは最初のこの時間が一番重要だと考えているそうです。インタビューでもお話ししていただいたように、地域の皆さんとのつながりを大切にすることが、この活動のポイントだからでしょう。身近なお寺が地域のハブになって、困っている人と助けたい人をつなげる「おてらおやつクラブ」の活動、皆さんも自分ができることで参加してみてはいかがでしょうか。

●おてらおやつクラブへの支援はこちらから▼
https://otera-oyatsu.club/donate/

●おてらおやつクラブでは2022年12月31日までふるさと納税による寄付を募っているそうです。
通常のふるさと納税と同じく所得税や住民税の還付・控除が受けられますので、こちらもぜひご協力を。
https://www.furusato-tax.jp/gcf/1638

Profile
野田 芳樹
林昌寺 (愛知県春日井市)副住職。1990年、愛知県春日井市生まれ。上智大学文学部国文学科卒業。2012~2015年、名古屋にある臨済宗妙心寺派の修行道場「徳源寺」にて修行。2015年、生家である「林昌寺」副住職に就任。お寺での法事や葬儀に携わりつつ、認定NPO法人「おてらおやつクラブ」の理事や臨床仏教師など各種社会事業にも従事。
林昌寺:https://rinsyouyakushi.org/
おてらおやつクラブ:https://otera-oyatsu.club/about/