SpecialVol.1

落語家・医師 立川らく朝師匠に聞く
<あなたにとっての健康とは?>

2020.09.16

なぜ、人は体を鍛えるのか

なぜ、あなたはジムで体を鍛えるのだろう。ダイエット、体力づくり、ボディメイク、ストレス発散、とにかく動きたい、モテたい(結構いるはず)。さまざまな目的があるだろう。なかでも「健康のため」という思いの人は少なくないはず。世界中が新型コロナウイルスの恐怖に襲われ、改めて健康の大切さを再確認した人も多いのではないだろうか。
落語家にして医学博士でもある立川らく朝師匠は、健康教育と落語をミックスした「ヘルシートーク」、「健康落語」という新ジャンルを開拓した。寄席や落語会のほか、病院や健康イベントで笑いというオブラートに包んだ健康情報を届けている。立川らく朝師匠に、健康に過ごすためにはどのようにすればいいかをお訊ねした。

あなたにとっての健康とはなんですか?

ところで、「健康」ってどのような状態だろう。
らく朝師匠に率直に訊ねると「うーん」と唸る。

「WHO(世界保健機関)に、『健康とは』という定義がある。健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること……と。そんな奴どこにいるんだという立派な定義ですね」と、らく朝師匠は笑う。

たしかに、病気でもなく、ニコニコと毎日を過ごし、仕事も安定していて、
家族の仲もよくなんの悩みもない。まるで、ドラマの幸せな家族の設定だ。
そんな人、この世にどれほどいるのだろう。らく朝師匠も、WHOの定義には首を傾げる。

「そんなものを健康といったら、現代で健康な人はいない。誰もがなにかしら問題を抱えていますよ。健康ってのは、人によって違っていい。だからね、自分なりの『健康観』を持つことが必要です。そうすると、誰でも健康になれる(笑)。俺、健康だなと思えれば、健康なんですよ。自分なりの『健康観』をはっきりと持つということが大事だと思いますね」

●健康のためには、「健康観」を持つこと……。
ランニングマシーンで1時間走り続けていた人が、加齢で30分しか走れなくなったとしよう。「1時間走れなくなった……」と嘆くより「まだ30分走れるのか。俺は元気だな」と思えれば健康だ。極論を言えば、たとえ重病を患っても、「今日は気分もいいし、なんだかいい日だな」と感じたら、その人にとっての「健康」だ。自分の体は、自分のもの。健康は自身の尺度なのだ。

「周りに流されて走ったり、ダイエットをしても続くわけがない。だって、ポリシーがないんだから。『健康難民』にならず、自分の持っている肉体を楽しめばいい。“健康とはこうあるべき”という発想を捨てないと、自分自身の健康にはたどり着かない。もちろん、不摂生がいいわけではない。メタボ予防は健康につながります。それを否定するものではない。だけど、体重数キロの増減で大騒ぎするような心持ちになるってことは、それこそが不健康なんじゃないか。健康という名のニンジンをぶら下げて走る馬になってはいけない」

健康のためにリラックスをする

らく朝師匠の言葉を聞いていると、気持ちが軽くなってきた。健康やダイエットにとらわれ過ぎると、「心の健康」を損なってしまう。たとえ、一時的に健康を手に入れたとしても、健康観がなければ、また焦りが襲う。それでは、がむしゃらにニンジンを追う馬になってしまう。では、心身ともに良い状態を維持するにはどうすればいいのだろう。

「リラックスする時間を持つことですね。自律神経の中には交感神経(ストレス状態)と副交感神経(リラックス状態)があり、常にどちらかが優位になっている。交感神経が働いているときは、血圧が上がり、脈も速まり、免疫力が落ちる。これは常に戦っている状態です。体にいいわけないでしょう。

副交感神経を優位にするためには、自分でリラックス状態を作らなければならない。食事しているときや寝ているときは副交感神経が優位になります。けれど、上司の悪口を言いながら食事をしたら、交感神経優位の状態になります(笑)。副交感神経を優位にするには努力が必要です。


私は時々、非日常を作ります。すると、脳がリラックスして副交感神経が優位になるのです。たとえば、仕事で移動するときに特急券を買ってわざわざボックス席に座る。多少の出費で旅気分が味わえるよね。これで脳が旅気分になってリラックスする。喫茶店のテラス席で鳥を眺めるとか、コンビニでビールを買ってガードレールに腰掛けて飲むのもいい。


……この間、道でビールを飲んでいたら南米系の美女に話しかけられたんですよ(笑)。積極的に、非日常を作るんです。何をするにも非日常はある。取り入れていく。副交感神経を優位にするにはいいと思いますよ」

エンターテインメントは非日常空間に浸れる

ところで、皆さんは落語を見に行ったことがあるだろうか。東京には4ヶ所、大阪には1ヶ所の寄席がある。また、寄席がない地域でも落語会が開催されている(現在は、コロナの影響で人数制限などがある)。副交感神経を活発にするのに、落語もいいのだろうか。らく朝師匠、落語を見に行くことも「非日常」ですか?

「エンターテインメントのいいところは、“非日常空間”に浸れること。寄席に行くと着物を着たお姉ちゃんがコマを回しているわけですよ。あんなこと、日常ではありえない(笑)。寄席に限らず、映画や舞台という非日常空間に身を置くのはリラックス効果がありますね」

非日常に身を置く以外に、もっと手っ取り早い方法があると、らく朝師匠は言う。それは意外な方法だった。

「ふて寝ってあるでしょう。イライラしている時でも、ふて寝をすれば副交感神経が優位になる。イライラしたら少し寝るといいんです。ストレスがある時、やけ食いもやけ酒などをする人がいるでしょう。実は副交感神経を優位にするにはいいことなんですよ。人がイライラする時に行う行動は理にかなっているんです。まあ、やけ酒は体にはよくないけれど、たまに食べ過ぎるくらいはいい。その中でも、ふて寝が一番健康的ですね(笑)」

このインタビューは、エニタイムフィットネスのコンテンツ。そろそろ、運動についても聞かなくては。師匠、適度な運動は体と心の健康にとって、いかがでしょう?

「そうですね。体を動かすと脳内のセロトニン(脳内で働く神経伝達物質のひとつで、感情や気分のコントロール、精神の安定に深く関わる)が増えます。嫌なことがあっても体を動かせばスッキリするでしょう。特にリズミカルな運動は、セロトニンを増やします。ウォーキング、ランニング、スイミング、サイクリングなど最後に「ing」がつく運動がいい。迷惑だけど貧乏ゆすり(Foot and leg shaking)もね(笑)。あとは笑うこと(Laughing)ですね。笑うと脳内でセロトニンが増えるんです」

フィットネスクラブは、体を鍛える場所だ。しかし、らく朝師匠の話を聞いていると、体を動かすのと同時に、心を落ち着かせリラックス状態を作ることが大切なことだと分かった。適度な運動を日常的に行い、健やかな心の状態を保つ。そして、自分の健康観を持つ。そうすれば、人と比べたり、焦ったりもしない。日常とトレーニングはつながっているのだ。さあ、元気にワークアウトに出かけよう。

PROFILE

立川らく朝(落語家・医学博士)
健康教育と落語をミックスした「ヘルシートーク」、「健康落語」、「落語&一人芝居」 という新ジャンルを開拓。 また「健康情報を笑いを交えて提供する」というコンセプトで全く新しい講演会を精力的に開催。
https://rakuchou.jp/


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