SpecialVol.5

杉本彩さん インタビュー
<命ある動物たちと暮らすということ>

2021.01.26

動物との暮らしを支える人たち

犬や猫は私たちと共に暮らす、とても近い存在の動物です。全国の犬の飼育頭数は約8,797千頭、猫は約9,778千頭と推計されています(2019年ペットフード協会調べ)。多くの犬や猫が「家族」として迎えられ、やがて天寿を全うします。しかし、一部では飼い主側の理由で殺処分となるペットがいる現実があります。統計上、殺処分数は毎年減っていますが、これは全国にある動物愛護団体が行政の保護施設から引き取り、飼い主を探すという活動があってこその数字です。動物愛護団体は、縁の下で動物のいる暮らしを支え続けています。 女優の杉本彩さんは20代の頃から始めた動物愛護の経験を活かし、動物の命の尊厳を守るために「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」を設立し、人と動物が幸せに共生できる社会の実現を目指しています。現在、杉本さんたち「Eva」はどのような活動を行っているか、ペットとどう付き合っていけばいいのかをお伺いしました。

動物を愛する、その先にあるもの

動物愛護団体は大きく2つのタイプに分かれています。ひとつはシェルターなどで動物を保護する団体。もうひとつは根本的な問題に目を向け、ペットビジネスの構造や動物に関する法律や制度などに対して提言していく団体です。私たちは後者の啓発団体です。講演をしたり、国や地方自治体に提言をしたりしています。

子どもたちにとって、動物はとても大切な存在です。動物を通して豊かな人間性を育んでもらいたいと、『いのち輝く こどもMIRAIプロジェクト』と銘打って、小・中学校で授業を行っています。日本の動物たちが置かれている現状、『動物愛護センター』ってどんなところか、動物はどうしてセンターにやってきてしまうのかなど、動物問題を身近に感じてもらえるよう授業を展開していきます。ほかに、シンポジウムを開催したり、講演、映画上映会、啓発チラシ・ポスターの作成・配布などを行っています。今は、『Evaチャンネル』というYouTube番組でも情報発信を行っています。

私たちは活動を通し、動物福祉の向上を目指しています。そもそも、日本人は動物愛護の気持ちが豊かです。すごく愛するし、可愛がっている。私たちが考えるのは“その先”です。動物の目線で、動物たちの欲求を満たし幸せにしてあげたい。動物福祉が向上することで、人も動物も豊かに暮らせる社会の実現ができると考えています。

●動物愛護という言葉はよく聞くが、「動物福祉」とはどういう意味なのだろう。

言葉は似ているのですが別のものです。極端にいうと『動物愛護』は動物を愛し慈しむこと。人間が主語で幸せで満たされることです。一方、『動物福祉』は、動物の行動欲求を満たすことです。動物福祉は1960年代にイギリスで提唱された『5つの自由』を指針としています。〈飢えと渇きからの自由〉、〈不快からの自由〉、〈痛み・傷害・病気からの自由〉、〈恐怖や抑圧からの自由〉、〈正常な行動を表現する自由〉です。

つまり、『5つの自由』というのは、動物も人間と同じように生きていくために必要な要求(基本的なニーズ)のことです。人間の管理下に置かれている動物は、自らの意思で基本的なニーズを満たすことはできませんよね。ですから、飼い主や占有者は動物のニーズを満たし、できる限り健康で快適に生活ができるようにする責務があります。私たちはその自由を奪わないことが、動物の幸せにつながると考えています。

ペットと暮らすために知って欲しいこと

●ペットを愛する人たちは、きちんと餌を与え、不快を取り除き、できるだけ快適に過ごせるように心配りをしていることだろう。だが、一方で「動物の自由を奪わないのなら、そもそもペットを飼わなければいいんじゃない?」という人がいるかもしれない。杉本さんはそういう意見をどう考えるだろう。

そうですね……。私にとってペットは確実に家族なんですね。もう、人と命の隔たりがないんです。もちろん、考えは人それぞれだと思いますし、もちろん飼わないという選択もあると思います。しかし、私が動物と暮らすということを選択した以上は、動物たちの暮らしに対して最善を尽くすのが、動物と暮らす人間の責任だなと考えています。

●ペットショップに行けばペットを簡単に手に入れることができてしまう。しかし、ぬいぐるみのような可愛いだけの存在ではない。様々な世話があるし、飼う中で「想像と違った」と感じることもあるかもしれない。犬や猫は時に20年以上、飼い主と人生を共にする。多くの人が責任を持ってペットと暮らすけれど、中には命を預かるという責任が希薄な人もいる。また、災害や病気などでペットと離れる暮らしを選択しなくてはならない人もいる。

ペットとの暮らしの中で様々な気づくことがあるでしょう。ただ、迎える前に、最低限持ってほしい知識や認識はあります。例えば、お子さんを出産するお母さん、お父さんは事前にたくさんのことを学びますし、準備をしますよね。ペットを迎えるのも同じこと。そういった『準備』をする間もなく、いつでも誰でも簡単に、ローンを組んででもペットを購入する市場があるということが、根本にある問題のひとつかなと思います。

そして、メディアにも問題はありますよね。『可愛い、楽しい、癒やされる』ばかりをアピールする動物番組もあります。人間にとってのメリットにフィーチャーして、そこだけが増幅されていく。良い面だけに目を向けて、大変なところ(毎日の世話、病気、死など)に想像が及ばないのは問題です。

ペットを迎える時、その大変さを冷静に誰かが説明してあげると、おそらく人は冷静になります。そこで判断を変える人も現れると思うんです。それでもお迎えすると決めたなら、生涯を全うするまで適正なお世話をする。……それに尽きます。とはいえ、人間はいつ何時何が起こるかわかりませんよね。仮にそうなった時のことも想定して、準備をすることも大切だと思いますね。

お年寄りがペットと暮らせる社会

●杉本さんの著書『それでも命を買いますか?』(ワニブックスPLUS)にこんな話があった。杉本さんが犬を連れて散歩をしている時、お年寄りに声をかけられる。「犬をまた迎えたいけれど、自分が亡くなったあと、動物たちを残していけない」と、お年寄りは言う。杉本さんはその方と接し、「こうした発想になれる人こそ、動物への愛情あふれる飼い主さんであるはず。動物たちのその後を考えてくれる心ある方にこそ、里親になって迎えていただきたい」と、思ったそうだ。しかし、シェルターで保護されているペットを迎える時、年齢や家族構成に制限がある場合がある。杉本さんはこの問題をどう考えているのだろう。

たしかに、里親の年齢や家族構成に一定の制限がある場合があります。ですが、心優しいお年寄りが人生をペットと共に暮らせたら、どれほど幸せかと思うんです。私たちもあっという間に年を取る。年齢のせいで動物たちとの暮らしを実現できなくなると思うと寂しい気分になります。動物を飼いたい人がその暮らしを実現でき、サポートできる社会であればいいなと思います。

●イングランドでは、ペットショップで生後6ヵ月未満の子犬や子猫の販売が禁止になった。ペットと暮らしたい場合、多くの人が選択するのが保護施設からの譲渡だという。

多くの人が保護施設から犬や猫を迎えるという選択をしています。保護施設のスタッフも『次は幸せにしてくれる飼い主のもとへ』という思いがありますので、不安な人の元へ譲渡はされません。つまり、『ペットを譲渡してもらえること』は、ある種のステータスともいえます。豊かな心をお持ちだということです。日本も保護した動物と暮らす意義・豊かさに気付ける社会になってほしいと思いますね。

海外の保護施設では、ペットを飼えないお年寄りがボランティアをする姿をお見かけします。たとえ飼えなくても動物と触れ合い、癒やされる場所や役割がある。これがあるべき姿だなと思うんです。ボランティアとして、保護犬と散歩をしたり、保護猫と遊んだり。動物も幸せだし、お年寄りも気持ちの面、体力面でもいい効果がある。みんなが幸せな状態ですよね。誰も不幸になっていない。こういう風景を見ると、社会全体が変わらないと解決しない問題はたくさんあるなと思いますね。

もし、ペットを迎えたいと思ったら、ぜひ『里親』になり、民間のシェルターや行政のセンターから迎えてほしいと思います。特にペット初心者の方には、ある程度、性格がわかっている大人のペットとの方が暮らしやすいと思います。みなさん、ペットとの暮らしに理想があると思いますが、往々にして理想通りにはいかない。性格がわかっていると、理想の関係が実現しやすいかもしれませんね。

期待しているのは若い世代の意識

●杉本さんは動物福祉の向上を訴えるため、幅広い協力を必要としている。かつては芸能界でサポートをお願いしても、リスクを想像して積極的に関わることを断られたそうだ。しかし、杉本さんが発信する番組『Evaチャンネル』にはモデルの松島花さん、女優の二階堂ふみさんが登場し、活発に意見交換をするなど、変化の兆しが見えはじめている。

そうですね。最近は発信力のある若い芸能界の方々が声を上げてくれるようになりました。特に大きいのはSNSという媒体の存在。それをきっかけに世の中が少しずつ変わっているように感じています。私は自分にできることがある限り動物福祉の活動をやり続けます。ライフワークですからね。

処分される動物がいる現状や環境を知ることは、特に小さなお子さんにはショッキングだと思います。ですが、若い世代に本当に期待しています。小さなお子さんから『いのち輝く こどもMIRAIプロジェクト』や、私たちの活動に対する感想のお手紙を頂くことがあります。『ぼく、なんでもやるので言ってください』、『将来、動物福祉活動がしたい』って書いて送ってくれる。涙が出ますよね。そんな言葉に触れた時、『強い思いを持っている子がいるんだな、子どもたちの心に届いていたんだな』って思います。そこに実感、やりがいを感じています。私たちが地道に続けてきた活動にはこういう意味があるんだなと。ぜひ、たくさんの方々に動物福祉について関心を持っていただけたらと思います。

PROFILE

杉本 彩 (Aya Sugimoto)
女優、作家、ダンサー、実業家、リベラータプロデューサー、公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長。 2014年「一般財団法人動物環境・福祉協会Eva」を設立し、理事長を務める。2015年には、「公益財団法人動物環境・福祉協会Eva」として公益認定を受け、動物愛護の啓発活動を精力的に行っている。その他、2016年オリパラ事務局心のバリアフリー分科会構成員、上方朗読振興会名誉顧問、京都動物愛護センター名誉センター長、全日本車いすダンスネットワーク特別理事も務める。2020年1月、ペットビジネスの現状に踏み込んだ「動物たちの悲鳴が聞こえる – 続・それでも命を買いますか?」(ワニブックスPLUS)を出版。
公益財団法人動物環境・福祉協会Eva http://www.eva.or.jp
YouTube Evaチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCB-Qxb4_SZE0SOza34rHWdA


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