SpecialVol.33

横浜アリーナのメインコートで
実現した共生社会の姿

SON東京・愛知とB.LEAGUEゲストによる
ユニファイドスポーツ®︎
バスケットボールゲーム

2025.06.20
文・ヘルシアマガジン編集部
写真・香西寛司

障がいのある人もない人も、同じコートに立ち、同じボールを追いかける。横浜アリーナのメインコートで開催された「ユニファイドスポーツ®︎バスケットボールゲーム」は、スポーツの力で心の壁を取り払い、真の共生社会を体現する特別な時間でした。プロ選手と共にプレーしたSOアスリートたちの笑顔と熱戦、そしてチームワークは、バスケットボールの新たな可能性を私たちに教えてくれました。

横浜アリーナのメインコートに
集まった特別なチーム

2025年5月24日、横浜アリーナのメインコートで「りそなグループ B.LEAGUE FINALS 2024-25 B.Hope ACTION UNIFIED SPORTS®︎ BASKETBALL GAME supported by ANYTIME FITNESS」が開催されました。

この「ユニファイドスポーツ®︎バスケットボールゲーム」は、スペシャルオリンピックス日本(以下SON)とB.LEAGUE Hope(以下B.Hope)が2018年より共同で推進している活動の一環です。その目的は、障がいのある人もない人もバスケットボールを通じて相互理解を深め、共生社会を実現すること。
B.Hopeは、B.LEAGUEの社会的責任活動のイニシアチブとして立ち上げられました。B.LEAGUE専務理事である佐野正昭氏は、この取り組みの原点についてこう振り返ります。「SONの皆さまからお話を伺う中で、『For You(あなたのために)』ではなく、『With You(あなたと共に)』という理念に深く共感しました。ただメッセージを伝えるだけではなく、共に活動することで、本当の意味でのダイバーシティ&インクルージョンが実現できるのではないかと感じたんです」

「Challenge with ALL」プロジェクトとして2022年から各地域における活動が強化されており、今回はSON・東京とSON・愛知が参加しました。ゲームには、両地区から選ばれたSOアスリート(知的障がいのある人)11名とSOパートナー(知的障がいがない人)4名が中心となってチームを結成。さらに、B.LEAGUEから特別ゲストとして、レバンガ北海道のゼネラルマネージャーである桜井良太さんと、大阪エヴェッサの竹内譲次選手が加わりました。

試合前のインタビューに答える三上選手

試合開始前には、TEAM東京に参加したSOアスリートであり、2024年第4期SONアスリートアンバサダーを務める三上隼人さんへのインタビューが行われました。株式会社Fast Fitness Japanの社員でもある三上さんは、2018年のB.LEAGUE FINALSユニファイドバスケットボールゲームにも出場した経験があり、ハキハキとした言葉で再びこの舞台に立てた喜びや、バスケットボールが「自分にできることがある」と気付かせてくれた大切な存在であることを語りました。

誰もが楽しめるルールで
行われた熱戦

試合はTEAM東京(BLACK)とTEAM愛知(WHITE)に分かれて実施。TEAM東京には桜井良太さんが、TEAM愛知には竹内譲次選手がそれぞれ特別ゲストとして参加し、前半はHCとして、後半は両ゲストがコートに立ちました。

佐野氏は、今回のゲームで最も大切にしたことについて「楽しんでいただくこと」と強調します。「大観衆がいるアリーナという特別な空間で、B.LEAGUEのスター選手と一緒にプレーする。彼らが思い切りプレーできれば、それは本人たちの自信にもつながりますし、周りの方々にも『楽しそう!』『一緒にやってみたい!』と感じてもらえると思いました」

試合時間は8分で、4分で一度交代が行われる特別ルール。トラベリングの判定を甘くするなど、誰もが楽しめるよう配慮されたルールで行われました。しかし、試合が始まれば真剣勝負です。果敢にゴールを狙う姿に観客も大きな声援を送っていました。試合は両者一歩も譲らない激しい展開となりましたが、結果はTEAM東京の勝利。大歓声の中、両チームが互いをたたえ合う姿が印象的でした。

B.LEAGUEゲストが感じた
参加者の勇気

「シュートが苦手だからどんどんパスを回していくなど、どんなプレースタイルなのかをみんなに聞きました」と桜井さんは試合前の様子を話してくれました。「僕自身、現役時代は足首の怪我を抱えていた中で試合に臨んでいたので、その時の気持ちや復帰時のことなどを聞いてくれました。どんどん質問を投げかけてくれたので、待っている間もあっという間に時間が過ぎましたね」

竹内選手は試合前のミーティングで、「緊張すると思うけど、限られた時間をできるだけ楽しみましょう」と声をかけたと言います。身長207cmの竹内選手を前に、参加者たちは目を輝かせていました。「こんなに背の高い人、初めて!」と興味津々な様子に、竹内選手も笑顔で応えます。「誰もが緊張する中で一歩を踏み出すのは、すごく勇気がいること。今日はみんなが勇気を出して大きなシュートを打つ姿が見えました。この成功体験を、ぜひ日常生活にも生かしてほしいですね」

参加者が語る喜びの瞬間

参加したアスリートやパートナーからは、印象的なコメントが聞かれました。石川隼人さん(TEAM愛知)は竹内選手について「背が大きくて、本当にプロの選手だなあと思いました。ハキハキ元気なチームで互いに声をかけ合うことができました」と振り返ります。

パートナーの西野咲良さん(TEAM愛知)は「アスリートがシュートをたくさん決めてくれて、その時にみんなで喜べたことがすごくよかったです」と、チーム一体となった瞬間を大切にしていました。

「リスペクト&サンキュー」で
臨んだ試合

古川七菜子さん(TEAM東京)は、チームの目標について語ってくれました。「チームの目標がリスペクト&サンキュー。この会場でいつも応援してくれている人に感謝の気持ちを込めて、ありがたいという気持ちを忘れないで、とコーチから言ってもらいました。自分たち自身も楽しめてみんなが楽しんでいる姿を見て、笑顔でバスケできたのがすごく良かったなと思います」

間中郁さん(TEAM東京)は「試合中、みんな笑顔でバスケットボールしていました。シュートが入ったらみんなで喜んで、相手がシュートを決めた時も自分たちのチームが喜んでいたんですよ」と、スポーツそのものを楽しむスポーツマンシップについて話してくれました。

コミュニケーションの大切さ

古川さんは、普段の練習と今回の体験について詳しく教えてくれました。「私たちは多くても週に1回ぐらいしかユニファイドとして練習ができていないので、みんなで会えた時はしっかりコミュニケーションを取ることを大事にしています。今日も自分たちの輪の中に桜井さんが自然と入ってきてくれて、たくさんコミュニケーションを取って、試合の中でも私たちのことを理解しようとしてくれていることがすごく伝わり、すごく嬉しかったです」

スポーツを通じて
インクルーシブな社会の実現へ

佐野氏は、観客席から見た象徴的なシーンについてこう語ります。「今回のユニファイドバスケットボールでは、障がいのある方だけでなく、健常者のパートナー選手もコート上で一緒にプレーしていました。おそらく試合を観戦された方々には、どなたが障がいのある方、どなたが健常者なのか、区別がつかなかったのではないでしょうか。ほんのわずかな意識の変化、ほんのわずかな仕掛け。その一歩を踏み出すだけで、社会は変わっていくと思いますね。多くの人が、『障がい者やハンディキャップのある方々のために何かできないか?』と感じている一方で、『何をしたらいいか分からない』と思っているのではないでしょうか。その時に、ぜひスポーツを一緒に楽しむことから始めてみてほしいです」

横浜アリーナのメインコートで繰り広げられたゲームでは、SOアスリート、パートナー、そしてB.LEAGUEのゲストが一体となり、バスケットボールを通してダイバーシティ&インクルージョンの世界観を体現しました。素晴らしいプレーの数々には、会場から大きな拍手が送られ、バスケットボールを通じた共生社会の実現に向けた今後の活動への期待が高まる一日となりました。