ローカルフード(地元食材)を食べる

文・井上英樹(monkeyworks)写真・相馬ミナ
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2021.03.26

埼玉県の大宮の氷川神社のすぐ近くに『デリカ』というお店があります。こちらのお店で提供される料理の食材はすべて埼玉県産(ワインと調味料のぞく)。オーナーシェフの山﨑暢さんは、ある県内産食材と出合い「地元食材の可能性」に気がつきました。そして、「県内の食材だけで料理店ができないだろうか」という考えに至ります。しかし、埼玉県の食料自給率は10%。山﨑さんに、地元の食材をご自身のレストランで使うことによって見えてきた、「ローカルフード」についてお話を聞きました。
平成30年度農林水産省 都道府県別食料自給率 より

ふとした出合いでローカルフードを見つめ直した

埼玉県の大宮駅と氷川神社のちょうど中間に『デリカ』はあります。氷川神社は大きなお宮で国内最長の参道があるのに、近くに拠り所があまりないんですよね。『デリカ』は、待ち合わせ場所でもあり、食事の場所でもあり、持ち帰りもできる。ふらっと寄れるようなイメージです。なので、店の形態を聞かれるといつも迷うんですが、最近はジャンルでいうと「茶店」と言っています。

以前は東京のフランス料理店で働いていました。楽しく、忙しく働いていたのですが、具体的に「答え」の出てこない違和感がありました。自分でもなにを悶々としているのかも分からない状態でした。ある時、大宮にある実家に戻ると父がブルーベリーをくれました。なにげなく食べたのですが、口に含むとみずみずしい。「どこで手に入れたの?」と訊ねると、実家から車で1時間ほどの場所だといいます。働いている店でもカリフォルニア産のブルーベリーを仕入れていたけれど、比較にならないくらいおいしかったんです。しかも、値段も安い。「地元の食材でなにかできないかな」。そんなことをふと思いました。ブルーベリーが糸口となって、あの漠然とした違和感がなくなるような気がしました。

以来、休みの日は大宮に戻り、産直店や農家を回りました。それまでは地元に対する愛情や興味なんて全くといっていいほどなかった。だけど、地元の野菜の味を知るにつれて考えが変わりました。調べれば調べるほど、回れば回るほど新鮮でおいしい食材に出合える。「埼玉県産の食材で店をやれそうだ……」。東京のレストランで働きながら数年間、埼玉の野菜を調べ続けました。そして、今から3年前に『デリカ』をオープンしました。

地元の食材のことならいくらでも話せる

『デリカ』で使っている野菜は慣行農法(一般的な栽培方法)もあるし、完全無農薬のものもある。僕は栽培法をさほど気にしない。僕の基準は「おいしい野菜」です。それと、農家の方との相性。しゃべって馬が合えば、その人から受け入れられるものだったらなんでもいい。だから、『デリカ』で使う食材を語れと言われれば、いくらでも話せます。全部、僕が直接買いつけていますし、ほとんどのつくり手とは話をしている。そして、秩父へ野菜を取りに行く途中などで「季節が変わってきたな」とか、河辺で「水の匂いが変わってきたな」と感じられる。店で野菜を扱うのに、産地の空気感を知ることは重要だと思っています。

埼玉県産食材で料理店をやっているというと、「地元愛が強い」と思われがちですが、いまだにさほど郷土愛が強いとは思いません(笑)。地元の食材を扱うので、周囲にある良いものをいっぱい知ることとなります。ですが、自分にとっては「ラブ」とか「愛」とは別の話なんですよね。地元の食材との付き合いは「家族」との関係に近いかもしれません。「僕は家族が好きだ」「僕には家族愛があります」なんて、普段言いませんよね。もちろん、家族は好きですけどね(笑)。言わなくても、通じる当たり前の関係というか。

埼玉には海がない。「大変でしょう?」と言われますが、逆によかったと思う。北海道や千葉県なら山も海も畑もあるからなんでも採れる。料理店にとって、食材が増えることはいいことで「これを出しておけば絶対にみんなが喜ぶ」みたいな食材があります。それは飲食店としては当たり前のことだと思うんですが、僕にとってのおもしろみではないんですよね。

料理の世界では「旬」を大切にしますが、鹿児島から青森まで季節を追っていけば、長い間「旬」のものがある。でも、埼玉だけでやっていると、本当に「旬」が短い。だけど、この短いど真ん中を食べてもらえると本当にうれしいんですよね。一口食べて「はっ!」としてもらえる。店を始める前は、埼玉という圏内は小さいかなと思っていたのですが、知れば知るほど広い。探れば探るほどある。3年経ってみて、あらためて埼玉は奥が深いなと思います。

埼玉には食のブランドがないけれど

埼玉には「ブランド食材」が少ない(もちろん、ありますが)。ですが、ないということはおもしろい。「ああ、おいしい! これはどこのなに?」と言われても、ほとんどが「普通」の食材です。鴨やソーセージのメニューを出すことが多いのですが、「普通」の合鴨だし、「普通」の地豚のソーセージなんです。だけど、「普通」の食材がおいしい。

たとえば、川越で切ってもらった朝採れキャベツに包丁を入れると、水風船みたいに水が出る。もう、びっくりするくらい水浸しになるんです(笑)。こんな新鮮でみずみずしいキャベツを使えたら、遠いところから持ってきたブランド産キャベツよりもよっぽどおいしい。そういう感覚を楽しいと思ってくれる人が『デリカ』に来てもらえたらうれしいですね。

埼玉県限定ですと、「旬」が過ぎれば基本的には来年までその食材は食べられなくなる。だけど、食べられないのなら、「じゃあ、次の10月までお預けだね」と考えると待ち遠しい。そして、ないからこそ知恵を絞る。たとえば、切り干し大根。これも昔の人は、大根がない時期に食べるために干したわけです。もし、昔から大根が一年中あったら切り干し大根というものがこの世には生まれてこなかった。あんなにおいしいのに(笑)。

羊羹(ようかん)も、乾燥小豆が出てくるのは年末頃。だから、正月にお汁粉や羊羹を食べるというのは、昔の人からすれば当たり前の季節感なのでしょう。それぞれの食材が一番輝く時期がある。地元の食べ物を扱うのであれば、僕はその「輝くタイミング」はいつで、どんな状態なのかをちゃんと知っておきたいと思います。そうすれば、それを僕は料理で伝えることができます。

埼玉県産の食材だけのお店というのは、最初は「制約」でした。だけど、最近では制約とは思わない状態になっていますね。つまり、手に入る食材を前にして「さて、この野菜で何がやれる?」という発想になるんです。だから、1つの食材に対しての選択肢がすごく膨らむようになりました。枯渇している時に生まれるアイデアって、けっこうおもしろい。今はこの状態に慣れてしまって「枯渇」を感じないので、これから新しいものをつくるのは大変かもしれませんね(笑)。

本当の意味のローカルとは

ご自宅で料理をつくる時、スーパーでご自身の地元の野菜を選択するのはおすすめです。意外といろんなものがあることに気が付くと思います。少し話が逸れますが、前に沖縄に行ったんですね。出てきた水を飲んだら、硬水でした。もちろん、料理にはその硬水を使っているでしょう。そこで食べた沖縄料理は本当においしかった。沖縄の素材を関東に持って帰ってきても、沖縄で食べた料理となにか違う。やっぱり、そこの水を吸ってできた野菜を、土地の水で料理をすると、それだけで圧倒的においしい気がするんです。

それは人間にも当てはまるかもしれません。僕は子どもの頃に埼玉で育って、東京に出て行き、埼玉に戻ってきた。だから、ここの土地の水が合う気がする。水は毎日飲むものですからね。僕は「水」って、食材にとって重要な部分を占めていると思うんです。地産地消という言葉があります。「地元で生産されたものを地元で消費する」という意味です。もちろん、いいことだと思うし、僕が『デリカ』でやっていることです。だけど、僕は必ずしも「地元の食材が一番おいしい」とは思わない。

たとえば、35歳で関西から埼玉にやってきた人がいるとします。その人はその後、埼玉で5年間生活をして「地産地消だから……」と、埼玉のものばかり食べていたとしても、やっぱり本当は関西の味が好きなんじゃないかと思う。僕はそれが当然だと思うし、なんなら関西から食べ物を取り寄せたらいい。きっとおいしいでしょう。だけど、その人が10年、20年、30年と埼玉に住み、埼玉の食材の味に馴染んでいけば、「地元」の食材や料理を本当においしいと思うようになるんじゃないでしょうか。それが本当の意味で土着というか、ローカルになっていくんじゃないかと思いますね。

PROFILE

デリカ
048-856-9522
埼玉県さいたま市大宮区宮町3-161
営業時間:14:00〜21:00
定休日:火曜
https://www.instagram.com/pecthe/


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