ReviewVol.20

“あなたの脳は
動くためにできている”

脳と運動の驚きの関係を解く『運動脳』

Review Vol.20 ベストセラー『運動脳』は今こそ読むべき本

文・山本敦子

動かないことによる
心身の不調

現代を生きる私たちは、必要な物に囲まれて快適に暮らしている。リモートワークやオンラインミーティングが一般化し、会社に行かなくても仕事ができるし、近くのスーパーやコンビニに行けば食べ物もすぐ手に入る。インターネットで注文したものは家まで届く時代、今や家から一歩も出なくても生活できるようになった。

『運動脳』
アンデシュ・ハンセン(著)/御舩由美子(訳)
サンマーク出版 1,650 円(税込)

「生物学的には、
私たちの脳と身体は今もサバンナにいる。
私たちは本来、狩猟採集民なのである」

これは『運動脳』のカバー折り返しに書かれている言葉だ。ベストセラーとなっている本書は、2018年3月に出版された、スウェーデンの精神科医であるアンデシュ・ハンセンによる『一流の頭脳』を加筆・再編集した書籍である。

近代化以降、生活環境はここ100年あまりで大きく変化したが、人類の身体は1万2000年前からほとんど変わっていない。獲物を追いかけて何キロも走ったり、一日中食べ物を探して歩き回ったりしなくてもよい生活環境になったのは、何万年単位の生物の進化の歴史からすると、つい最近のことである。このような生活様式の変化に人間の身体や脳の進化の速度が追い付いていないことが、多くの現代人が心や身体を病んでしまう理由である、というのが著者の主張である。つまり、現代に暮らす私たちの不調は、「動かないこと」に原因があるというのだ。

運動で
脳をアップデート

この本では、身体を動かすと、気分が晴れやかになるだけでなく、あらゆる認知機能が向上し、記憶力が改善し、集中力が増し、創造性が高まるという、運動によるさまざまな恩恵が研究データを元に解説されている。

「ランナーズハイ」を体験したことはなくても、存在することを知っている人は多いだろう。走ると高揚感がもたらされるこの現象も、人間の祖先がサバンナで獲物を追って暮らしていた時代の名残なのだという。狩猟の時に長い距離を走り続けることができなければ食料を得られない。生死に関わる状況で走り続けるために、苦しさを軽減し、鎮痛作用があり、多幸感をもたらす脳内物質が出る。「ランナーズハイ」とまではいかなくとも、運動をすることで気分が晴れやかになるのは、この脳内物質が分泌されるからだそうだ。

他にも、記憶力を司る海馬が成長する、集中力や創造性が高まるなど、「身体を動かすことほど、脳に影響をおよぼすものはない」のだという。2月は受験シーズンだが、試験を前にした学生も、机にかじりついて勉強するだけでなく、運動をすべきなのだろう。もちろん、高齢者の認知症予防にもつながる。どんな運動でも脳トレやサプリよりも効果があるというが、脳を最高のコンディションに保つためには、ランニングを週3回、45分以上行うことが望ましいそうだ。重要なのは、心拍数を増やすこと。筋トレをやっている人も、まずはこの本を読んで、「脳をアップグレード」するために有酸素運動をぜひ取り入れてみよう。