逗子海岸映画祭 発起人 志津野雷さん インタビュー
<なにもない場所には、可能性しかない>

文・井上英樹(monkeyworks)イラスト・町田早季
Special
2021.03.15

神奈川県の海岸で毎年ゴールデンウィークの連休に『逗子海岸映画祭』が開催されている(新型コロナウイルスの影響により2020、21年は中止)。映画祭の期間だけ、ビーチには蜃気楼のようにスクリーンが現れる。ビーチにテントが設営され、カフェや屋台で食事、メリーゴーラウンドやスケートパークも登場。そして、夜になると幅広いジャンルの映画が上映される。風が吹けばスクリーンが揺れ、車が通れば音が遮られることも。だけど、そんな状況も含めて映画祭を大勢の人が楽しんでいる。2009年から10回開催してきた映画祭は、逗子の風景になっている。そんな『逗子海岸映画祭』の発起人にして、写真家でもある志津野雷さんに話を聞いた。

一枚の写真から映画祭がはじまった

僕は普段、カメラマンの仕事をしていますが、CINEMA AMIGO(シネマアミーゴ)という映画館を2009年から運営しています。逗子で築30年の民家をリノベーションして仲間たちと共につくりました。ちょっと普通の映画館とは違い、映画を見ながら飲食をすることができますし、宿泊だってできます。僕が子どもの頃は、逗子にも映画館があったのですが、いつしかなくなってしまった。それで、映画館を仲間たちとつくったんです。

逗子海岸映画祭はCINEMA AMIGOとほぼ同時にスタートしました。というのも、映画館をつくったら誰かがそこにいなくてはいけない。写真家としての仕事には旅が欠かせません。僕は外の世界でたくさんのインスピレーションをもらいたい。だから、映画館ができて半年くらいすると、小さな映画館にいることが窮屈になってきました(笑)。

ああ、旅がしたいな。そんなとき、以前訪れたアメリカのオレゴンの光景を思い出しました。ビーチにストライプの大きなテントを張って、椅子が並んでいた。ウエディングパーティーだったんです。そこにローカルの人たちが楽しそうにビールを飲んだり、音楽を聴いていたり。本当に素晴らしい光景だった。あの感じが逗子でできたらいいな、と。僕は「オレゴンで見たビーチカルチャーを逗子でやってみたいんだよね」と、いろんな人に伝えたのだけど、みんなピンとこない。そこで、フィルムを探し出してオレゴンの光景をプリントしました。すると、その写真を見せただけで、「ああ、そういうことね」とたくさんの人に伝わった。改めて、写真ってすごい力を持っているなと実感しました。

その「ビーチの写真」のイメージをゴールとしました。イメージを共有できた仲間たちから、たくさんのアイデアが出てきた。僕がやったのは、最初のイメージを伝えただけですね。前から周りにはおもしろい連中がたくさんいて、そういう連中が混じり合うといいなと思っていた。映画祭という場を中心にして、ミュージシャン、写真家、デザイナー、料理人、大工が混ざっていく様子がとてもおもしろかった。思いつきから半年後には逗子海岸映画祭を開催することができました。

映画祭という「場」をつくりだした

●逗子海岸映画祭は、映画を上映する「映画祭」だが、屋台やワークショップ、さまざまな交流イベントが行われている。逗子海岸映画祭は、技術やアイデアを交換できる「場」だと志津野さんは考えている。

映画祭という場所を中心にして、誰もが表現できる場になっている。つまり、「テクニックシェア」ができる場所なんです。僕は写真家だけど、料理もスケートボードも大工仕事もいろいろ覚えたい。その願いをサポートしてくれるプロフェッショナルたちが周りにはたくさんいる。旅先で一曲弾ける能力、さっと一品作れる料理の技術、テーブルを作れる大工技術。どれも生きる上で持っておいて損はない技術ですよね。代わりに僕は、写真や映像の撮り方や映画祭のやり方をシェアすることができる。サーフィンが好きなので一緒に海に入ることだってできる。

映画祭には地元の逗子や鎌倉はもちろん、全国から人が集まる。そして、さまざまな職種のスペインのバスク人、ポルトガル人、フランス人、インドネシア人たちも映画祭スタッフとしてやって来る。彼らの「テクニック」はすごい。交流すればお互いに学び合うことができる。今ではもうみんなが勝手につながって、僕の知らないところでも交流してくれている。その関係性がすごくうれしい。よく思うんだけど、これからの財産ってこういう関係じゃないかなと。僕にはお金はないけれど、人間関係という財産はじゃらじゃら、僕はそういう意味では本当に大金持ちですね(笑)。

●志津野さんたちは、逗子の海岸を越え、海外に日本カルチャーを持っていく活動も行っている。そのきっかけは旅で訪れたスペインのバスク地方だった。

2013年、16年、17年にスペインのバスク地方に移動式映画館『CINEMA CARAVAN』を持って行きました。『CINEMA CARAVAN』というのは“PLAY with The Earth”(地球と遊ぶ)をコンセプトに、五感で体感できる移動式映画館です。逗子海岸だけではなく、さまざまな場所にスクリーンを持って行き、日常から非日常の映画館を作ります。その過程で地元の方々から生きる知恵や工夫を教えてもらえる。

きっかけは旅です。2012年、飛行機の機内誌『翼の王国』の撮影でバスク地方に行った時、大西洋に面したバスクが逗子と似ていると感じた。山があり砂浜がある。規模感も逗子に似ている。人も本当に温かい。日本に帰ってきてから、「逗子・バスク勝手に姉妹都市」と銘打って、映画のプログラムを組み『バスクデー』をやってみました。だけど、リアリティがない。バスクは世界的に有名な料理の街だし、だったら料理人に来てもらおうと思った。そうすればリアルなバスクを感じられる。取材でご一緒した画家の故・堀越千秋先生から紹介を受けてスペイン大使館に協力を頼みに行きました。企画をおもしろがってはもらえましたが、色よい返事はもらえなかった。帰る時、大使館の人に「ところで逗子ってサーフィンできるの?」と聞かれた。僕はサーフィンが好きで毎日海に入っていると伝えると、「俺もサーファーだ。チケットを用意してやるよ」って。それでバスクからシェフを呼ぶことができました(笑)。

●バスクとの「勝手に姉妹都市」の活動で風向きが変わったと志津野さんは言う。翌年の2013年はスペインとの国交400年の年。志津野さんの元に、バスク地方の『サン・セバスティアン国際映画祭』から正式オファーが届いた。日本から料理人、大工、ミュージシャンたちを連れて行き、移動式映画館『CINEMA CARAVAN』を開催する運びとなった。

ローカリズムとは「自分たちの思い」のこと

『サン・セバスティアン国際映画祭』に参加した移動式映画館『CINEMA CARAVAN』では、10日間で2万人を動員することができました。映画上映や日本食などのカルチャーを知ってもらいました。メジャーな日本映画を上映するだけではなく、ドキュメンタリー映像やスケートボードカルチャーも紹介した。今の日本の状況や生のカルチャーを知ってほしかった。すると、現地の人たちから「俺の見たニュースと違うじゃないか。日本って今はどうなってるの? 教えてよ!」とダイレクトな反響がある。それが、市民同士の生の声だと思うし、リアリティなんだと思う。

僕が本当にやりたいのは「映画祭」という様式ではない。映画祭での交流を通じ、「なにを生きて、なにを見て、なにを伝えていくか、そしてなにがしたいのか」ということを考えてもらいたい。そのきっかけがCINEMA AMIGO、逗子海岸映画祭、CINEMA CARAVANなんです。「ローカリズム」というのは、土地の話ではなく、「自分たちの思い」なんだと思います。

コロナの時代になって、つくづく思うのは、これからは情報ではなく、人間の感覚を上げていく必要がある。チャンスがあれば1分でも海に入り、山に入る。もちろん、同時に危機管理能力も高めていく。僕が海辺で映画祭をするのも、人を自然に引っ張り出したいという気持ちが大きいからです。東京の人は夏になると逗子に遊びに来ます。だけど、夏以外はやってこないでしょう。ゴールデンウィークの頃の逗子の海は本当にきれいなんです。昼はだいたい穏やかなのですが、夜になるとグッと気温が下がる。雨や雹(ひょう)が降ることもあるし……。もう、人間なんて自然の前では無力ですよ。風からテントやスクリーンを守らなければならないこともある。「皆さん、守ってください! ポールを押さえて!」みたいな(笑)。そんなときは主催者も観客も関係ない。全員で自然から映画祭を守るしかないんです。

なにもない場所だから、なんでもできる

これまでに映画祭を10回やって、逗子に目を向けてくれる人が増えたように感じます。コロナ以降、コワーキングスペースを作りました。たった10日程のための映画祭だけではなく、365日受け入れる場所があれば、もっと逗子に関わってもらえると思ったからです。今、僕たちの活動は、映画館、宿、オーガニックマーケット、コワーキングスペースなどが逗子の中に点在している。今は温泉施設も考えています。映画祭で培ったさまざまな経験を集約して、次につながればと思います。

昔から「逗子にはなにもないね」と言われてきました。お隣の鎌倉には歴史があり、葉山には御用邸があります。だけど、僕は地元の逗子が今一番おもしろいと思うし、動いていると感じる。観光地や歴史があると、どうしてもそこだけに依存してしまう。けれど、逗子には依存するものがない。前はそれがネガティブに感じていたけれど、今はそれがチャンスだと考えるようになりました。

全国に「うちの地元にはなにもないからなぁ」と言っている人がいると思う。だけど、それって最高じゃないですか。しがらみがないんだから。新しいことを始められるし、なんでも作ることができる。もちろん土地の魅力を捨てろなんて言わない。あったらあればいいけれど、なかったらないで、かまわない。なにもない。それって、そこで新しいことをやれるってことですからね。

PROFILE

志津野 雷(Rai Shizuno)
写真家、シネマ・キャラバン主宰、「逗子海岸映画祭」発起人。自然の中に身を置くことをこよなく愛し、写真を通して本質を探り、人とコミュニケーションをはかる旅を続ける。旅雑誌や広告撮影を中心に活動。

ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL https://zushifilm.com
CINEMA CARAVAN http://cinema-caravan.com
CINEMA AMIGO http://cinema-amigo.com


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