SpecialVol.22

ヘルシアプレイスを
沖永良部へ!

エニタイムフィットネスの
マシンリサイクルプロジェクト

文・ヘルシアマガジン編集部

エニタイムフィットネスは2018年に「オープンフィットネス宣言」を行い、フィットネスジムが社会ともっとつながっていくことを目指した活動を開始した。その一環としてスタートしたプロジェクトが、店舗のリニューアル時に発生する入れ替えマシンを必要な所へ届ける「マシンリサイクルプロジェクト」だ。エニタイムフィットネスが寄贈したマシンは、町にどんな変化をもたらしたのか取材した。

2019年、知名町へのマシン寄贈

沖永良部島は切り立った断崖と美しい砂浜に囲まれた隆起珊瑚礁の島だ。奄美群島に属し住所は鹿児島県だが、距離的、気候的にも文化的にも沖縄に近い。島には知名町(ちなちょう)と和泊町(わどまりちょう)の2つの町がある。海亀に出会えるダイビングやケイビング(洞窟探検ツアー)など、観光の魅力も満載だ。

エニタイムフィットネスが知名町にマシンを寄贈したのは2019年。当時は『Healthier Islands Project(ヘルシア アイランド プロジェクト)』として、出店が難しい離島へリユースマシンを寄贈していた。沖縄県座間味村に続いて、2例目となったのが知名町だ。知名町役場の西経良さんにお話を伺った。

知名町役場の西経良さん

「私自身がトレーニングに興味があり、自分でトレーニングをしていたのですが、たまたま鹿児島県で2023年に国体が行われることが決まり、知名町にパワーリフティング競技を誘致することになりました。国体に合わせて競技人口を増やしたいと考えたのと、そもそも運動すると気持ちがポジティブになるので、運動する人が増えて町の人がポジティブになれば地域振興につながる!と町に提案して、体育館に小さなトレーニング室をつくらせてもらいました」。

西さんはその後、知名町役場の鹿児島事務所に赴任し、エニタイムフィットネス与次郎店に入会。

「店内のモニターで座間味村へのマシン寄贈のことを知りました。沖永良部島にもマシンを寄贈してもらえたら、もっとたくさんの人が運動することができるのではないかと考え、エニタイムフィットネスに問い合わせをしました」。

マシンを地域の健康増進に生かしたい、地域振興に役立てたいという西さんの提案をいただき、エニタイムフィットネスとしてもしっかり応えたいと思い寄贈を決定。寄贈されたマシンの管理運営はNPO法人沖永良部スポーツクラブ・ELOVE(イーラブ)が行っている。

沖永良部スポーツクラブ・ELVOVE(知名町)

持続可能な
スポーツ環境を目指す

沖永良部スポーツクラブ・ELOVEは、元保育所の施設を利用したフィットネスジムだ。理事長の前田純也さんは、前身団体で小中高の先生やスポーツ指導者向けの勉強会、子どもたちの運動教室を実施し、島のスポーツ環境改善を目指す活動を続けてきた。マシン寄贈のタイミングとNPO法人化のタイミングが合致し、ELOVEが管理運営を担うことになった。

沖永良部スポーツクラブ・ELOVE
理事長の前田純也さん

「私はこの保育所の一期生で、新しい認定こども園が建設されて遊休施設になっていたこの場所をなんとかしたいという思いもあり、ここを改修してフィットネスジムとして運営することになりました」。

お遊戯室だった部屋に並べられたマシンは寄贈してから4年近くたっているが、リユースとは思えないほど綺麗にメンテナンスされている。

「日頃の清掃は常時雇用しているスタッフが担当しています。隅々まで丁寧にきれいにしてくれています。現在の会員は132名、3分の1が65歳以上ですが、高校生もいます。エニタイムフィットネスのハイスクールパスにならって、夏休みから高校生無料も検討したいと考えています」。

元お遊戯室に設置された寄贈マシン(ELOVE)

海が見える位置に置かれたトレッドミルのモニターにはエニタイムフィットネスのロゴが今も表示される。オープン当初から利用されている栗尾健一さんは毎日通っているという。

「健康診断でメタボに引っかかったけど、ゴルフが好きで、80歳まではゴルフをしたいので、体力づくりで来てるの。痩せたいだけでは続かないね、何かモチベーションがないと。体重は4kg、腹回りは5cm減りました。年取ると痩せるのは難しいね(笑)。いいマシンが入って良かったです。雨が降っても運動できるからね」。

オープン当初からの会員の栗尾健一さん

マシンの寄贈によって、町にはどんな変化があったのだろうか。

「オープンしたばかりの時はフィットネスって何?という感じだった利用者も、最新のマシンが入っていることに驚いたと思います。最初は作業着で来ていた人たちが、だんだん体が変わってくると、蛍光色のトレーニングウエアになったり、周りの人にどんどん紹介してくれたりと、考え方や生き方も前向きに変わっていったのが分かりました」と前田さん。

アスリートも利用する
本格マシンジム

「それまでは島にトレーニングできる施設がなかったので、以前はトレーニングをしていると、何のために鍛えているの?とよく聞かれたのですが、この施設ができてトレーニングをする人が増えたことで、健康のためにトレーニングする、ということが皆さんに伝わったのではないかと思います。また、この施設でトレーニングをした地元のパワーリフティングの選手が昨年国体に出場しました」と、西さんは成果を語る。

ここ数年目覚ましい活躍を続けている阪神タイガースの近本光司選手は、この3年間沖永良部で自主トレを続け、ELOVEでトレーニングをしている。また、女子プロボクシング元世界チャンピオンの吉田実代選手は父親が沖永良部出身で、現在はアメリカに拠点を移しているが、帰省するといつもELOVEでトレーニングをしている。他にも高校運動部の合宿の問い合わせも多く、プロアマ問わず、本格的なマシンが揃うELOVEを利用しているそうだ。

今年から知名町の保健福祉課と連携。特定保健指導を受けた人の会費を町が負担し、ELOVEで運動してもらうという取り組みも始まった。今後、運動機会が増えたことで、島の健康寿命が延びることも期待される。

前田さんは、今後の目標を次のように語った。

「ELOVEは “小さな島でもでっかいスポーツ環境!”をスローガンにしています。島でもスポーツができない環境ではないよ、ということを子どもたちに伝えていきたい。小さな成功体験を積み重ねていき、次の世代の子どもたちが育っていく、持続可能なスポーツ環境をつくっていきたいと考えています」。

海を見ながら走れるELOVEのトレッドミル

2023年、和泊町にもマシン寄贈

沖永良部島のもう一つの町、和泊町には2023年4月にマシンが寄贈された。第三セクターが運営する「海洋療法施設タラソおきのえらぶ」に付帯するジムは、25年ほど前に導入した古いマシンで構成されていたが、そこにエニタイムフィットネスのリユースマシンを追加し、施設の充実を図るという計画だ。プロジェクトを進める和泊町役場の吉成大さんに寄贈までの経緯を伺った。

海洋療法施設タラソおきのえらぶ(和泊町)

「和泊町はもともと1人当たりの医療費が鹿児島県内43市町村の中で39番目、後期高齢者医療保険の利用が40番目と、県内でも比較的健康な人が多いのが特徴でした。健康増進や運動に対して意識が高い町民が多く、和泊町にある全集落が参加する町民体育大会に向けて練習したり、競技団体に所属している人も多かったりします。ところが、コロナ禍でみんなが集まって運動する機会が減少してしまったので、改めて運動する機会をつくらなければいけないのではないか、と役場としては考えていました」。

和泊町役場の吉成大さん

吉成さんは関東からの移住者だが、沖永良部は運動が盛んなことを実感したという。集落の運動会があったり、ジョギング大会に0歳から94歳まで2,000人が参加したり、夏には船漕ぎ大会があったりと、体を動かすイベントがたくさんあり、それが集落の結束にもつながっていると感じたそうだ。

一方で沖永良部は高校までしかないため、卒業後は島外に出てしまう人が多い。中高生にアンケートをとったところ、島に住み続けたいと思う条件のトップが「スポーツ・趣味・娯楽が充実していること」だったこともあり、若い人が住み続けたいと思う島にするためにも運動施設を充実したいと町は考えたそうだ。

「私自身が筋トレをやっているということもあり、もっとたくさんの人がジムでの運動を習慣化すれば、町全体が健康になるのではないかと考えました。知名町がマシンリサイクルプロジェクトでマシンを寄贈していただいたことを知り、私たちもエニタイムフィットネスに問い合わせをしました」。

タラソおきのえらぶのジムエリア

運動は盛んだが
町民の運動量は足りていない

タラソおきのえらぶの主任である加納慎也さんは島生まれ島育ち。

「私は高校まで島で暮らし、卒業後は島外のトレーナー養成の専門学校を出て、関東のスポーツクラブでインストラクターとして働きました。都会では通勤で歩いたり階段を使ったりというのが日常の運動になっていましたが、島に帰ってくると、車社会なので島の人は歩いていないなと感じました。確かにいろいろな運動の活動は盛んですが、健康になるためには日常での運動量が足りないのではと思いました」。

タラソおきのえらぶ主任の加納慎也さん

タラソおきのえらぶは海水を利用したタラソテラピー施設が中心となっている。プールは病気や怪我のリハビリで利用する人が多いそうだ。

「本来は病気や怪我の予防のために施設を利用していただきたいのです。大会やイベントの直前に急に運動するのではなく、日頃から運動をしていただくことが大切だと考えています。いいマシンを寄贈していただいたので、今後はたくさんの人に日常的に使ってもらえる施設にしていきたい、それが私たちの役目だと思っています」。

マシンが寄贈されたことで会員さんの反応はどうだったのだろうか。

「入会率が上がりました。これまでは若い男性が少なかったのですが、パワーラックが入ったこともあり、20~40代の男性の利用が増えています」。

現在ローカルTV「ERABUサンサンテレビ」で、加納さんが筋力トレーニングと食事のアドバイスでスタッフの体を2カ月で変えるという企画を放映している。ローカルTVは町の9割の世帯が加入しているので、たくさんの人がジムに新しいマシンが入ったことを知っているそうだ。

加納さんに今後の目標を伺った。

「今後は若い世代の利用率を上げることが目標です。今までジムは午後しかオープンしていなかったのですが、10時から利用できる日を設定したところ、主婦の方が多く利用してくださるようになりました。通える時間帯は人それぞれなので、利用時間帯はこれからも広げていきたいと思います」。

マシンの寄贈で利用層が変化

利用者の前沢綾香さんと中野渉さんにもお話を伺った。

前沢さんは昨年島に帰ってきて、クーラーの効いた部屋で過ごしたり、車での移動が増えたため不健康な生活になってしまったと感じ、積極的に汗をかいて健康的になろうと考え運動を始めたそうだ。

「もともと運動は全然していなくて、したいとは思いながらも、タラソおきのえらぶは年配の方が利用する施設という印象だったので、今まで利用したことはありませんでした。今回エニタイムフィットネスのマシンが導入され、それに伴ってメニューも変わり、若い人も増えると聞いて入会しました。実際に入ってみたら、マシンの種類が多く、幅広いメニューも用意されていて、ダイエットとか筋肉増強とか、それぞれの悩みに応じてマシンを使い分けられるようになっていたので、イメージと違ってびっくりしました」。

タラソおきのえらぶ会員の前沢綾香さん

「楽しく運動できればいいな、くらいの軽い気持ちで始めたのですが、ジムに通い始めると、せっかく通っているのだからと、お酒をセーブしたり、食べ物にも気をつかうようになり、生活全般に良い影響がでてきているなと感じています。同級生にも勧めています。長生きのために続けたいです」。

中野渉さんは週に5日、仕事が休みの日は1日2回来ることもあるそうだ。

「私はもう5年くらい利用しています。上半身が弱く持久力がなかったのですが、今回、上半身用のマシンが3種類、有酸素マシンも増えて、今までできなかったトレーニングができるようになり、トレーニングの幅が広がったのでとても感謝しています。最初の2年は自己流でトレーニングをしていたのですが、全然結果がでなくて、その後筋トレと有酸素運動のやり方を教えてもらったら、この2年で12kg体重が落ちました。今はこの状態を維持したいと思って続けています」。

タラソおきのえらぶ会員の中野渉さんと
トレーニング指導をするエニタイムフィットネス本部の菅野さん

知名町、和泊町から感謝状贈呈

6月6日(火)和泊町役場でマシンの寄贈式と感謝状贈呈式が行われた。和泊町長前登志朗氏にエニタイムフィットネスを運営する株式会社Fast Fitness Japanの土屋敦之社長より目録が渡され、前町長からは感謝状が贈呈された。

土屋社長は、「このプロジェクトはマシンを寄贈して終わりではない。プロジェクトが今後うまくいくかどうかは、皆さんにかかっている。各自治体、団体が、我々のサポートによって地域の健康増進のために何ができるのかが重要であり、マシンの寄贈によって、1人でも多くの人の健康増進に寄与できれば、エニタイムフィットネスを出店するのと同じように、ヘルシアプレイスを届けられると考えている」と挨拶した。

前町長は「マシンを活用し、多くの島民がフィットネスに参加できる取り組みを進めていきたい」と意気込みを語った。

前町長(左)と土屋社長(右)

同日、知名町でも今井力夫町長から土屋社長に感謝状が贈られた。

今井町長からは「子どもからお年寄りまで、自分のペースでトレーニングできる環境が整った。運動に対する意識も高まっている」と感謝のコメントがあった。

今井町長(右)と土屋社長(左)

離島というフィットネスジムの出店が難しい場所に、会員ニーズ変化に伴い発生する余剰マシンを寄贈することで運動機会を提供することを目指す「マシンリサイクルプロジェクト」。知名町と和泊町は、自治体としてしっかりとした利用計画と地域振興の明確なコンセプトがあったことから寄贈が実現した。二つの町が今後どのような「ヘルシアプレイス」に変化していくのか注目したい。海のアクティビティだけでなく、本格的なマシントレーニングも楽しめる沖永良部島、夏休みに訪れるのもいいだろう。

海を眺めながらトレーニングできる
タラソおきのえらぶ